がん患者の“変化”隠す

外見ケアイベントで患者と会話する分田さん
ウイッグ(かつら)、人工乳房、化学療法でシミが増えた顔色を整えるメーク用品…。東京都文京区の東京大医学部付属病院で月2回開かれる外見ケアイベントには、治療で生じた体の“変化”を隠すさまざまな道具が並ぶ。この企画を立ち上げたのは、同病院がん相談支援センターで副センター長を務める日南市出身の医師・分田貴子さん(47)=東京都在住=だ。
分田さんは宮崎西高理数科を経て、東京大教育学部を卒業。ところが、父親が肝臓がんにかかったことから医学の道に進むことを決意。同大学医学部で学び、2002年に卒業した。
転機は、免疫治療の研究に携わっていたころに訪れた。この研究では、患者一人に対し、1回当たり6カ所の注射を2週間おきに実施。患者の体には痛々しい注射痕が残った。しかし、周囲の医師は「治療だから患者も仕方がないと思っているはずだ」と意に介さない。そこで患者に調査したところ、「プールに行けなくなった」「温泉に入れなくなった」などの本音を聞いた。
当たり前の生活が制限されている実態にショックを受け、考えたのが「カバーメーク」。医療制度に取り入れている英国に渡り、専用の化粧品で傷痕をカバーする方法を学んだ。
帰国後はカバーメークだけでなく、抗がん剤による爪へのダメージや脱毛の相談なども受けるようになった。5年前から外見ケアイベントを開催。今ではウイッグ、乳腺術後下着、義指や義手のエピテーゼ(人工修復物)などを扱う11業者が参加し、入院・外来の患者も1回に40~70人も集まるようになった。
「患者さんにも普通の生活がある。治療中だから外見に支障が出ても我慢しなければならないという考えはおかしい」と外見ケアの必要性を強調する分田さん。最近では本を出したり、講演で北海道から沖縄県までを駆け回ったりと忙しいが、「古里に貢献したい。声が掛かれば、ぜひ宮崎にも伺いたい」と願っている。