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みやざき考福論

【第2部・変わる価値観】(1)ネット社会

2017年4月11日
居場所 直接会う先に

 「LGBT(性的少数者)交流会を開きます」。LGBTの自助グループ「レインボービュー宮崎」を立ち上げた宮崎市の山田健二さん(32)=仮名=が、会員制交流サイト(SNS)のフェイスブックで、活動内容を発信する。「誰でも見ることができ、多くの人に知ってもらえる」と利点を説く山田さん。時間がたつにつれ、情報を見た人が賛同や共感の気持ちを表す「いいね」が増えていった。

 山田さんは同市内の会社に勤める傍ら、自助グループの主催や大学の講義など、精力的にLGBTへの理解を求める活動に取り組む。ただ、人前に出られるようになったのは、ここ数年のことだ。

 幼い頃から同性の友人に興味があった。16歳で彼氏ができると、自分がゲイ(男性の同性愛者)であることを確信した。「普通の人と違うんだ」。そんな負い目を感じるようになった。

 追い打ちを掛けるように、エイズウイルス(HIV)感染が発覚。まだ21歳。両親以外に打ち明けられる人はいない。「もう誰にも会いたくない」。生来の明るさは、日を追うごとに消えていった。

 間もなく、接客のある飲食店従業員から倉庫で仕分け作業をする仕事に転職。仕事と通院以外は外出せず、極力人と会わない生活を28歳になるまで続けた。その間、心を支えたのがSNSだった。

◇     ◇


 mixi(ミクシィ)やフェイスブック、LINE(ライン)…。近年は多様なSNSが普及し、手元にスマートフォンやパソコンがあればいつでも、どこでも、誰にでも連絡が取れる時代になった。本県も同様で、総務省の通信利用動向調査によると、県内のSNSの利用率は2010年の5・5%から、14年は42・7%に急増。悪質商法や詐欺、誹謗(ひぼう)中傷などの犯罪、子どもへの悪影響を懸念する声もあるが、恩恵を受けている人も少なくない。

 山田さんのよりどころとなったのも、HIV感染者しか入会できないSNS。病気のことや性の悩み、日常への不安…。初めて両親以外の人に胸の内を明かすことができた。抱えていたストレスは減り、同じ悩みを持つ人たちがいることに励まされた。

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 ただし、「SNSで人とつながること自体が幸せなことではない」。今、山田さんはそう考える。28歳で病気を打ち明け、現在の会社に就職。人と顔を突き合わせ、語り合える関係を築くことで、心から幸福を感じられた。「ネットがなければ『居場所』をつくるための情報や勇気を持つことができない人もいる。自分もその一人だった。しかし、SNSに依存するのではなく、『目指す自分』になるための道具としてSNSを使うべきだ」

 今年は、HIV感染者が集える自助グループの設立も目指す山田さん。「同じ境遇に悩んでいる人を、一人でも多く救うきっかけになれば」。そう願いながら、きょうも情報を発信し続ける。



 時代の変遷によって変わる価値観もある。その時、人は何に「幸せ」を感じるのか。現代を象徴するキーワードから、ひも解いていく。

【写真】LGBTの仲間と語り合う山田さん。「同じ境遇に悩む人の力になれば」とSNSで情報発信を続ける=宮崎市男女共同参画センター「パレット」

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