乗船してすぐ、窓際のテーブル席で“宴会”を始めた夫婦。「これがフェリーの楽しみ」
ゆったり自由な時間 観光、物流支える海の要
日が傾き始めると、次々とトラックが乗り込んでいく。船内では、窓越しの夕景を眺めながらビールをすする旅行客-。午後6時の宮崎港。出港間近のカーフェリーがにぎわい始める。宮崎カーフェリー(宮崎市)が運営し、宮崎-神戸を結ぶ県内唯一の長距離フェリー。どんな人がどんな目的で利用するのか、カメラを引っ提げ乗り込んだ。19日の宮崎発。大型トラック130台収容の車両甲板は満杯だが、旅客は平日とあってやや少ないようだ。
午後7時10分の出港直後、船内を歩き、宮崎の市街地を望む窓際のテーブル席をのぞいてみると、一組の男女が早速、缶ビールを傾けていた。年1、2回はフェリーを使うという宮崎市内の浜畑民康さん(64)。夫婦で窓際の席に陣取っての“宴会”は、いつもの楽しみ方だ。「ゆっくり飲めるのはフェリーならでは」と笑顔でビールをあおる。
波に揺られる船内で、読書したりおしゃべりしたり。夜の海上をゆったりと進むフェリーの旅を、思い思いに楽しむ乗客を改めて見渡すと、年配客の姿が目立つ。
都城への帰省を終え、和歌山に帰る70代の夫婦。「宮崎は車がいるから帰省は必ずフェリー」。延岡市の男性(63)は、千葉の友人を訪ねる1人旅。空路か陸路かと迷った末に「時間もあるし、安いから」と初乗船した。
そんな中、1人黙々と食事する女性の姿も。東京在住の原田佳代子さん(44)。熊本や椎葉に足を延ばした帰り道。これから仕事で京都に行くため、友人にフェリーを勧められた。「旅していることを実感できて『寅さん』気分」と満喫した様子だ。
出発から約12時間後、翌朝7時30分に神戸港に到着。神戸の街並みが背後に広がる港を見下ろすと、下船したトラックが市街地へと列をなしていた。多くは関東方面が目的地。阪神高速道・京橋インターチェンジへと流れていく。
トラックのフェリー利用は宮崎発が全体の6割を占めるが、長時間運転の防止を理由に神戸からの乗船も増えてきた。大阪の運送会社に勤める堀田竜次さん(31)は、宮崎市内の工場に機械を運ぶため利用。「陸路に比べてフェリーはかなり楽。きついと人も来ないから」と業界の人手不足の深刻さもにじませる。
20日午後7時10分。神戸の夜景を眺めながら、宮崎港へと出発する。修学旅行や近畿県人会など団体客が重なり、船内は宮崎発とは打って変わって大勢の人でごった返す。
そんなにぎやかな船内の一角で、幼い子ども2人と遊ぶ夫婦がいた。岐阜から訪れた加藤仁さん(37)。今回は単なる旅行ではないという。宮崎は妻の実家。高齢の両親の事を考え、このまま家族で宮崎に移住するそう。「何度も乗ったが、今日が一番、思い出深くなるかも」。
今回の往復で旅客は約700人、乗船したトラックは250台を超えた。観光や物流を支える“海上交通の要”といわれるフェリー。その重要性を垣間見た3日間だった。