農業機械の小型化で、入り組んだ地形を持つ棚田での作業も効率化が進む
落葉樹と水田が織りなす幾何学模様
急峻(きゅうしゅん)な戸川岳のふもとにたたずむ日之影町七折の戸川地区。見事な石の文化が息づく「石垣の村」は、実りの秋を迎えている。先人の苦労をしのばせる、急斜面の棚田には黄金色の穂が揺れる。午前9時ごろ、太陽の光がようやく差し込み、周囲の緑と相まって稲穂の輝きは一段と鮮やかさを増す。
石垣の村の戸数は7戸で水田面積は3・7ヘクタール。当初は畑作主流だったが、1925(大正14)年に七折用水路が開通したのを機に稲作中心の農業へ変遷した。棚田の枚数は104枚に上り、周辺の落葉樹と水田が織りなす幾何学模様は見事。紅葉や新緑、レンゲで彩られる水田など四季を通じてさまざまな表情を見せる。99年に「日本の棚田百選」に選定された。
収穫期を迎えた棚田で汗を流していた同地区の藤本貢さん(75)は「石灰岩質の戸川岳のふもとだけに土質は最高。昼夜の温度差や日之影川の良質な水も手伝っておいしい米になるんです」と自慢げだ。
65歳以上が43・5%と高齢化が進行する同地区だが、暗い話題ばかりではない。2006年に森林セラピー基地に認定され、交流人口が増加。ガイドもこなす石垣の村管理組合長の坂本博さん(70)は「観光客に『素晴らしい所に住んでますね』と褒められるとうれしい。訪れる方から少しずつ元気をもらっています」と照れ笑いを見せた。(写真部・宮本武英)
【メモ】日之影町役場から見立方面へ車で約15分。食事や宿泊可能な石垣茶屋は、渓流釣りや登山客にも人気。同役場では森林セラピーおすすめプランも紹介している。TEL0982(87)3910。