あめ状になった煮汁を素早く釜から上げ、冷やしがめへと運ぶ。立ち上る湯気とともに甘い香りが作業小屋に漂う

集中力で0.01秒制す 激しく優雅な“格闘技”

 「君がため 春〜」。百人一首の上の句に反応、鋭い手さばきで札を奪い取る。「畳の上の格闘技」と形容される競技かるた。優雅さと激しさを併せ持ち、県内でも幅広い年代が楽しんでいる。その魅力を探った。

 毎年1月に開催される県高校新春百人一首大会。今年は24日に予定されるが、その前に校内大会を開く学校も多く、競技の普及に一役買っている。延岡星雲高では12月から授業で扱い、大会に備えており、那須三紀子教諭は「百人一首の面白さに触れることで古典学習の一助になればいい」と期待する。

 妻高2年、中武諒君は校内大会で鍛えた実力を試そうと部活動に入り1年。3年生5人の引退で部員1人になったが、今年の全国高校総合文化祭(高総文祭)・福島大会の県選抜メンバー入りを目指し腕を磨く。

 昨年8月の全国高総文祭宮崎大会には補助員として参加、選手のレベルの高さを目の当たりにし刺激を受けた。「すごい速さの札払い、札を取ったときの迫力ある掛け声に圧倒され、すごく感動した。自分もあの舞台で戦いたい」と同校3年ぶりの代表の座を狙い、3月の選考会に挑む。

 日南市・吾田東小6年の倉元苑圭さんは、少女漫画「ちはやふる」を愛読し、競技かるたにのめり込んだ。「戦い方や歌の意味の勉強になるんです」。タイトルの由来となった歌「ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」。景色の描写だけでなく、激しい恋の情熱を詠んでいるとの解釈を知り、一番の得意札になった。「神経を集中させているから誰にも負けません」。そんな果敢な攻め同様、昨年春に学校に百人一首クラブを作った行動派。「クイーン(女流日本一)になって、多くの人にかるたの魅力を伝えたい」と夢へ向かって歩んでいる。

 札取りは0・01秒を争う世界。古式ゆかしく和服で競技するイメージを抱きがちだが、ジャージーなど動きやすい服装での参加を認める大会がほとんどだ。

 そんな中、宮崎市の呉服店・染織こだま(児玉健一代表)は、競技向けの木綿の着物を8年前から販売する。袖丈は従来の半分以下の20センチと短くし、脇の部分には切りこみを入れるなど、競技経験者である健一さん(60)と長男健作さん(30)の視点が盛り込まれている。「着物でも楽しめることを多くの人に知ってほしい」と健作さん。着物に身を包み、高校以来の大会参加を視野に入れる。