魚道の浅瀬で遊ぶ子どもたち。アユやなは自然観察の場にもなっている=延岡市大貫町・延岡水郷やな

清流の贈り物 郷愁誘う風物詩

 炭火の周りにずらりと並んだくし刺しのアユが、じりじりとあぶられ黄金色に変わる。白く浮いた粗塩。煙とともに広がる香ばしいにおい。延岡市の秋の風物詩「アユやな」の食欲をそそる光景だ。

 アユやなは、川をせき止め、産卵で下るアユを捕る漁法。五ケ瀬、大瀬川などの五ケ瀬川水系では300年以上の歴史がある。やな漁の解禁は毎年10月1日。それから約2カ月間、川岸に立つ「やな場」はアユ料理を求める観光客らでにぎわいを増す。

 この伝統漁法が漁獲量の減少で苦境にある。延岡市水産課によると、昨年の漁獲高は8・6トンと、最盛期の1972(昭和47)年の約10分の1まで落ち込んでいる。かつて4カ所を数えたやなは昨年に続き、延岡市大貫町の「延岡水郷やな」だけだ。

 しかし、流域住民にとってアユやなは貴重な生活文化。郷愁を誘う風景、香りを持っている。延岡水郷やなの高橋生矢さん(60)は言う。「アユを焼く香りは風に乗って川下の町まで広がる。お客さんをやな場に誘うようにね」。環境省は2001年、後世に残そうと「五ケ瀬川の鮎(あゆ)焼き」として「かおり風景100選」に選定した。

 アユの生育環境を守る運動も進む。その一つが北川漁協が5年前始めた「マイストーン作戦」。今年は7月中旬、北川上流約1キロで実施し、約100人がデッキブラシで川石を磨いた。長瀬一己組合長(57)は「餌になる藻が生えやすくするのが狙いだが、住民の環境意識向上にもつながっている」と川の再生を願う。

【メモ】延岡水郷やなは延岡市役所から車で約10分。目の前で焼き上げる塩焼きやみそ焼き、鮎めしが人気を集める。やなの写真展やコンサートも予定する。延岡観光協会TEL0982(29)2155。