鉢上げ作業をする長友さん=3月25日、日南市富土

山の伝統文化、次代へ そば打ちまで住民指導

 全国で唯一残されている焼き畑を生かして子どもたちの豊かな心と体を育もうと、椎葉村・尾向(おむかい)小(外山健一郎校長、31人)は「子ども焼畑体験学習」に力を入れている。地元住民と協力し合い、今年で27回目を数えるこの取り組みは、伝統文化の継承に大きな役割を果たす。椎葉山の大自然で活動する子どもたちの姿をカメラで追った。

 焼き畑は、切り開いて火を入れた山林でソバ、ヒエ、アワなど作物を変えながら4年ほど作付けし、その後は20年以上放置して再び山林に戻す循環型農法。昭和30年代まで全国で盛んに行われてきたが、現在は同村尾向地区の一軒の農家だけが続けている。世界農業遺産に今月認定された「高千穂郷・椎葉山地域」の大きな要素の一つでもある。

 青く澄みきった空に太陽が輝く7月下旬、山々に囲まれた標高800メートルの地で体験学習の火入れの日を迎えた。御幣が風に揺られ、厳かに山の神と生き物たちに祈りをささげる。青年団の指導を受けた6年生8人がトーチで火を入れると、勢いよく燃え上がる炎は約20アールの山肌をみるみる黒く染めていった。

 「炎の大きさに驚いたけど、尾向にしかない焼き畑は私たちの自慢」と誇らしげに話す椎葉菜々花(ななか)さん(12)。椎葉爽花(さやか)さん(12)は「自分たちのために大勢の大人が事前に準備してくれたり、一緒に作業してくれたりして、すごくありがたい」と感謝する。

 山肌が温かいうちにまいたソバの実は、70〜80日で児童の腰高まで成長。10月下旬に鎌やはさみで刈り取り、脱穀した後、伝統農具の唐箕(とうみ)を使って葉くずなどを取り除いた。

 先月下旬、学習を締めくくる収穫祭に地区住民約140人が集まった。今年、収穫できたソバの実は約22キロ。子どもらは石臼で引いたそば粉でそばを打ち、地取れのシシ肉を添え、尾向ならではの“そば切り”を完成させ振る舞った。そばに舌鼓を打つ子どもたちの表情は充実感にあふれていた。

 6度目の焼き畑体験を終え、石井雄希君(12)は「山に火を入れたのは初めて。これまで以上に焼き畑を身近に感じ、地域の方々と作業することで、仲が深まった」と満足そう。学習の一環として奉仕活動や募金も行い、外山校長(55)は「6年生はリーダーの自覚を持って、率先して行動できるようになった」と目を細める。

 村には「かてーり」と呼ばれる助け合いの精神が息づく。同地区は小学生のいない世帯も含め、全136世帯がPTAに加入し、費用面でも学校行事を支える。住民らに温かく見守られ、子どもたちはまた一つ、成長を遂げていく。