「海」「山」のロゴが入った扉付近は記念撮影の定番。木の質感を損なわないよう丁寧にこすり、汚れを落としていく

木と人のぬくもり 旅彩る細やかな心配り

 きらめく日向灘の海岸線や飫肥杉の木立を縫って、おもちゃのような列車が日南路をゆっくりと進む。木のぬくもりに包まれた車内。そこには鉄道の旅独特のゆったりとした時間が流れる。JR日南線の宮崎―南郷で2009年10月に運行を始めたJR九州の観光特急「海幸山幸」。土日・祝日と長期休暇期間中のみだが、これまで約3万2千人が利用し、乗車率90%超と人気を集めている。


 出発前の宮崎駅のホーム。客室乗務員の川原小百合さん(25)がにこやかに乗客を出迎えていた。車両をバックにした記念撮影を手伝いながら、午前10時6分の発車に備える。車内では観光列車ならではのイベントを用意。海幸彦、山幸彦の神話の紙芝居や、鵜戸神宮の運玉を模した福引きと、どれも客室乗務員たちのアイデアだ。「遠方からのお客さまに神話や宮崎の風土を知ってほしいから」。そんな細やかな心配りが、乗客の旅の一ページを彩る。


 絶景を味わう仕掛けも好評だ。青島―北郷の鬼の洗濯板を望むスポットでは1分ほど停車、油津―南郷の七ツ八重が見える鉄橋付近では徐行運転になり、それぞれ案内放送が入る。「いい眺めね」「本当にきれい」。海沿いの豊かな自然と景観に感嘆の声があちこちで上がる。


 列車は「海幸」「山幸」の2両編成で51人乗り。内外装に飫肥杉をふんだんに使っているのも特徴の一つだ。日光や雨にさらされる外装は、特に入念な手入れが必要。「木はこの列車の目玉。きれいな状態を保つのが仕事よ」とJR九州宮崎車両センター長の宮内義弘さん(51)。水洗いに加えて木質を傷めないような洗剤洗いを取り入れ、掃除に工夫を凝らす。


 乗降客が最も多い下りの飫肥駅では10分間停車。飫肥天や海産物など特産品がホームにずらりと並び、乗客が続々と降りて品定めする。もてなすのは泰平踊の踊り手たち。やっこ姿の小玉洋一郎さん(53)は「一緒に踊りのポーズで撮ることもある。短い時間の交流が楽しいね」と写真に納まりながら、泰平踊もしっかりPR。再び飫肥に足を運んでもらうのが狙いだ。


 「木のぬくもりもだけど、人のぬくもりを感じるいい列車ね。思い出に残る旅になったわ」と福岡市から友人4人で訪れた松本恵子さん(70)。「また乗りに来たい」と心を動かす原動力は、車窓からの美しい眺めだけではない。「のんびりと旅を楽しんでほしい」と陰ながら支える人々の心意気にある。