老木も目立ち、植え替えや再生の取り組みは急務(6日撮影)
10万人を引き付ける、先人が残した地域の宝
延々と続く桜のトンネルを穏やかな風が吹き抜けていく。都城市西部の丘陵地にある母智丘公園。春になるとソメイヨシノや八重桜など約2600本が咲き誇り、2キロに及ぶ桜並木は桜色に染まる。その美しさに引き付けられ、毎年約10万人の花見客が訪れる県内有数の桜の名所だ。かつて、この地は木々一つない荒れ野だった。都城市史などによると、明治初期、地頭の三島通庸(みちつね)が丘の上に母智丘神社を建立。桜の木を植え、民の安寧を願ったのが始まりという。
昭和に入ると、都城商工会議所初代会頭の江夏芳太郎が桜の植栽を進め、「南九州随一」と地域が誇る名勝地に育っていった。1990年、日本さくらの会(会長・横路孝弘衆院議長)の「さくら名所100選」に県内で唯一選ばれている。
今年も3月末に満開を迎え、参道は桜を楽しむ人々でにぎわった。昼の淡い日差しの下もいいが、夜桜も趣がある。透明感のある白い光、黄色みを帯びた光に照らし出された花々は、夜が深まるにつれて刻一刻と表情を変え、見る人を飽きさせない。
近くに住む久留近雄さん(72)=都城市横市町=は「写真の枝ぶりを見れば、住民ならどの桜かすぐに分かる。それほど大切にしている」と胸を張る。
だが、一部の樹勢の衰えが心配される。「先人が残した地域の宝。何としても後世に残したい」と神社の禰宜(ねぎ)久保田忠孝さん(71)。保存、維持活動の盛り上がりに期待を込める。(写真部・米丸悟)
【メモ】JR日豊線西都城駅から霧島神宮行き宮崎交通バスで15分、横市停留所で降車してすぐ。車は同駅から県道31号を霧島神宮方面へ約15キロ。都城観光協会TEL0986(23)2460。