朝日に映える松林。先人から引き継ぎ、守っていくため官民一体となった取り組みが必要となる=5月、宮崎市佐土原町下那珂

薬剤散布や品種改良 再生向け官民一丸

 ここ数年、宮崎市や新富町の沿岸部を中心に甚大な被害を及ぼしている「松枯れ」問題。松林を歩くと茶色く枯れた葉や松ぼっくりが痛々しい。関係機関は、防除や被害木の処理に加えて松林の回復にも力を入れる。地域の松林を守ろうと住民たちも力を合わせだした。官民一体となった取り組みを追った。

 松枯れは「マツ材線虫病」という松の木特有の感染症。一般的に「松くい虫」と呼ばれるマツノマダラカミキリと、この虫に寄生する線虫が被害を引き起こす。カミキリムシが松の若枝の皮を食べる際、かじった枝の傷から線虫が木に移り込み枯死させる。

 近年、県内の松くい虫被害量は3千立方メートル台の横ばい傾向だったが、昨年度は約5千立方メートルに増加した。県は昨年、プロジェクトチームを発足させ、従来の薬剤散布に加え、上空からの散布で小回りの利くラジコンヘリを導入。海岸線以外でも、症状の出ている庭木や事業所の松まで見回り処置する徹底ぶりだ。

 地道な取り組みは功を奏し、県は本年度(9月末時点)の被害量を前年同期比で3割程度に抑えられると見込んでいる。

 被害を抑える一方、松林の再生も急務だ。県は、約30年前から線虫病に侵されにくい「抵抗性マツ」を研究開発。植え替えを随時進めており、防災林としての機能強化を図る。苗木を生産供給する県緑化樹苗農業協同組合の林田喜昭さん(60)=川南町=は「線虫にも耐性が付くため、抵抗性マツの品種改良は終わりの見えない根気のいる仕事。先人が残した海岸線の原風景を守れるよう頑張るだけ」と育苗に精を出す。

 19日には、宮崎市の阿波岐原森林公園にボランティア約530人が集い、抵抗性マツの苗木約千本の植栽や下草刈りを実施。参加した同市生目台東1丁目の会社員黒木正人さん(60)は「松林に入り問題の深刻さを実感。回復の一助になれば」と汗を流した。

 樹木医会宮崎県支部長の讃井孝義さん(71)は「被害低減には薬剤の適時散布や被害木処理の徹底はもちろんだが、被害にいち早く気付き、通報体制を整えておくことが有効」と訴える。

 延岡市長浜町では環境教育の場として松林の有効活用を進める、長浜町ふれあいの森の会(甲斐善一会長、15人)を住民らで結成。保全活動にも熱心な同会は、定期的に下草を刈る。枯れ松の発見など異変に気付きやすくなり、被害の広がりを抑えるのに一役買っているようだ。

 官民一体となった活動を通し、美しい松林を再び取り戻せるか。地域住民の理解や活用の在り方、体制づくりが大きな鍵となりそうだ。