工房「赤い面」で、加藤さん(右)らと会話しながら作品作りに励む篠村さん(中央)
独自の世界観を形に 会話や音、写真から発想
日南市吉野方の障害者支援施設「つよし寮」(外林一弘施設長)には、寮生らが創作した陶芸や絵画などを展示する「つよし美術館」がある。作品群の中でひときわ目を引くのが、篠村利治さん(74)の陶芸「車シリーズ」だ。欧米風のクラッシックカーやオープンカー、バスなど独創的なデザインは見る人を楽しませる。近年は抽象作品にも挑戦している篠村さん。独特な作風が光る陶芸の世界をのぞいてみた。五ケ瀬町出身の篠村さんは寮が開所した1979(昭和54)年に入所。「楽剛焼」と名付けた窯業が寮で始まったことから篠村さんも粘土に触れるようになり、見よう見まねで制作を始めた。
元施設長で、現在同市内で工房「赤い面」を営む加藤信由さん(77)=同市今町2丁目=は「時間をかけ、集中して作り上げるところがほかの寮生と違っていた」と当時を振り返る。寮は82(同57)年にえとの置物づくりを始め、陶芸技術を身に付けた篠村さんがその製作の中心を担うようになった。
代表作「車シリーズ」制作のきっかけは95年に旅行で訪れた東京ディズニーランド。華やかなパレード車に感銘を受け、車の作品づくりにのめり込んでいった。創作した車には、人の体や顔が表現されているのが特徴だ。山歩きが好きな篠村さんは「山の中を散歩していると車が空を飛んでいるように見える」と空想の世界を説明してくれた。その“空飛ぶ車”を形にするのだという。
現在、篠村さんは寮での作品作りだけでなく、週に一度「赤い面」の工房でも粘土に向かう。「原点に帰って抽象的な創造の世界を作ろう」という加藤さんの方針の下、この2年間は車シリーズから離れて抽象陶芸に取り組む。加藤さんによると、篠村さんは人との会話や音、写真で見た風景などを基に発想し形にしていく芸術家。そうして生み出された新作は、人が組み体操をしているような幾何学的なデザインで表現されている。
「粘土作りをしているときが一番楽しい。車もまた作りたい」と話す篠村さん。衰えることのない創作意欲で、これからも独自の世界を表現し続ける。