配達商品を確認する商工会職員。利用者は宅配専用のカタログを見て電話で注文する
高齢者の生活支え奮闘 信頼築き利用者も笑顔
「こんにちは―」。玄関先に響く柔らかい声。その瞬間、庭で立ち話をしていた前田サツコさん(87)=都城市高崎町前田=は顔をほころばせた。高崎町商工会(大迫勉会長)の「高崎宅配便」が着いた知らせだ。「車がないから町まで行けんとよ。何でも運んでくれるから本当に助かる」。そう言って、うれしそうに荷物を受け取った。高崎宅配便は、高齢者や共働き世帯などの買い物の利便性向上を図ろうと、2005年4月に始まった。スーパーや薬局、電器店、飲食店など11店が加盟。平日午前中に商工会が電話注文を受けて、午後3時から4時の間に無料で届けている。
配達を担当するのは海江田潤さん(34)。両親が営む精肉店業務の傍らで1日5、6軒を回る。「地域のためになる仕事でやりがいがある。一対一の関係を大切にしたい」。配達時間を過ぎても追加注文に応じる熱心さで「正直もんで、よか人よ」(前田さん)と利用者の評判もいい。
加盟店が取り扱う商品はさまざまだ。飲食店の鶴田辰子さん(57)は、緑内障の高齢者に毎日弁当を作る。「飽きないようにメニューを工夫し、食材はなるべく県内産を使っている」と気配りを忘れない。スーパーの岩本弘子さん(60)は「顔が見えないからこそ、商品の消費期限や生鮮食品の傷みに気を付けている」。関係者の言葉の一つ一つから、昔ながらの地域密着の商売を大切にする気持ちが伝わってくる。
しかし、そんな思いに反し認知度は高まっていない。同商工会によると、現在、80歳以上の高齢者を中心に約100人が会員登録しているが、昨年の利用者は27人。うち定期的に利用している人は10人ほどしかいない。
「1品だけでは申し訳なく、頼みづらい」「宅配の時間帯を広げてほしい」と声は届くが、打開策は見いだせない。海江田さんは「豆腐1丁、キュウリ1本からでいい。もっと多くの人に利用してほしい」。前商工会長で薬局を経営する真方洋一さん(71)は「生鮮食品から生活用品まで一度に届けられる。欲しい物は何でも頼んで」と利用を呼び掛けている。
人口1万人、高齢化率35%の高崎町。宅配便は商業者と消費者をつなぐだけでなく、高齢者を見守る役割も果たしている。「始めたころはお年寄りの警戒心が強かったが、今はもう大丈夫。『網戸を直して』『電化製品の説明書を読んで』と頼まれるようになった」と海江田さん。これからも商品とともに温かい心を運び、地域を支え続けていく。