危険な作業に当たる職人気質の男たち。カメラに気付き笑顔を見せる=6月下旬
高所作業漂う緊張感 「町の象徴」継承に情熱
綾町の綾南川渓谷に架かる高さ142メートル、長さ250メートルの照葉大吊橋が5日、リニューアルオープンする。町は昨年10月、架け替えに着工。多くの作業員が危険な高所作業をこなし、国内有数の大吊橋に再び命を吹き込もうと情熱を傾けた。その姿をファインダーに収めた。宮崎市内から車で約40分。サカキやシイ、カシなどの生い茂る照葉樹林は、多くの野生生物がすみ、豊かな生態系を育む。1982(昭和57)年、本県と熊本県にまたがる一帯が九州中央山地国定公園に指定。その2年後、自然遊歩道約2キロの一部となる初代大吊橋が架けられ、多くの観光客を呼び込む照葉樹林の町のシンボルになった。
橋本体の架け替え工事には、県内の架橋のプロが多いときで12人集まった。気温が連日30度を超える夏場はヘルメットの隙間に汗がたまり、作業服の背中もびっしょり。集中力を維持するのも大変な作業だった。
メーンケーブルを両岸の主塔に架ける高所作業では、わずかなズレも許されない。「おい右。もっと右」。大きな声が飛び交い、張り詰めた緊張感の中で作業が続いた。
渓谷での主な作業は、山の尾根や斜面に索道と呼ばれるワイヤを張り資材を運ぶ。新しい橋桁は一つの長さが5メートルで重量は1トン。ケーブルカーが往来するように、ゆっくりとバランスを崩さないよう細心の注意を払って移動させる。
上部工事の現場監督を務めた坂本徹さん(55)=宮崎市=は、初代大吊橋の工事には父の次男さん(89)と、今回は次男の惇さん(24)と携わった。「作業員の命を守る責任、重圧は大きい。でも10年、20年と『綾のシンボル』として形に残る仕事。親子3代でかかわれ誇りに思う」と喜びもひとしおだ。
新橋は初代大吊橋の形状、大きさを継承した。橋桁床面は中央部分を編み目にし渓谷美がこれまで以上に楽しめる。耐風柵も60ミリと太くなり、風による揺れにも強いという。
9月末、友人家族と綾の自然を訪ねた宮崎市下北方の公務員森俊幸さん(32)は、照葉樹林に浮かぶような吊橋を見て「本当に圧巻。早く渡ってみたい」と声を弾ませた。秋の行楽シーズンはもうすぐ。緑豊かな綾の森に1年ぶりのにぎわいが戻ってくる。