畳半畳ほどのスペースで使えるポータブルの治療機器。エックス線撮影や義歯の調整などができる機器もある
慣れた環境で治療 要介護の高齢者らに好評
「歯の治療をしたいけど通院は無理」。そんな悩みを持つ寝たきりの高齢者や障害者らに県歯科医師会の「在宅施設訪問口腔(こうくう)ケア」が好評だ。まだ認知度は低いが、超高齢社会を迎え、お年寄りの健康づくりを主にニーズが高まっている。4日から「歯の衛生週間」。県内の訪問歯科診療(歯科往診)の現状を探った。「寝たきりの妻にとって食事は一番の楽しみ。せめて妻自身の歯で食べさせたい」。宮崎市江南4丁目の貴島昭さん(83)は、妻静子さん(80)のために7年前から定期的に口腔ケアの在宅訪問サービスを受けている。「歯のぐらつきや虫歯にいち早く気付き治してもらえる。素人ではどうしても見落としてしまう」と信頼を寄せる。
同医師会によると、寝たきりの高齢者の口中をケアせず放っておくと、細菌が繁殖して肺炎を引き起こし死に至るケースもあるという。そうした不幸が起きないようにするのが在宅施設訪問口腔ケアの狙い。そのメリットは、慣れ親しんだ環境で診療室と同じような治療、機能訓練が受けられることだ。歯科往診を始めて14年になる宮崎市本郷南方の歯科医青山修さん(50)は「要介護者の通院には時間と労力がかかり大変。家族や介護者が歯を磨いたとしても限界がある。病を理由に我慢を強いられるようではいけない」と意義を語る。
対象は寝たきりの高齢者ばかりではない。同市清武町木原の知的障害児施設ひまわり学園(井戸川秀喜園長、41人)は、2008年4月から施設訪問の口腔ケアに切り替えた。福祉課福祉係長の辻留美さん(44)は「以前は歯科医院や診療所の雰囲気を子どもたちが嫌い、治療するにも大変だった。今では子どもたちの口内環境を清潔に保てて助かっている」と歓迎する。
県歯科医師会では在宅歯科医療のネットワークづくりを進めており、現在、協力医は約250人と全体の約5割を占める。宮崎市内で見ると、在宅歯科診療を受けた患者数は08年度以降、704人、729人、784人と毎年増加傾向にあり、関心の高まりがうかがえる。
しかし、歯科医師は都市部に集中し、診療体制に山間部との格差があるのも事実。集落が点在する辺地では、移動に時間がかかる地理的な問題も普及活動の壁になっている。県歯科医師会の錦井英資常務理事は「より多くの人が利用しやすい体制をつくりたい。悩んでいる方は、かかりつけの歯科医や県歯科医師会に相談してもらいたい」と呼び掛けている。