会員最高齢80歳の鈴木素直さん(左)は終戦直後の一帯の航空写真や、22年前の池周辺の写真を手に風景の変遷を説明する=宮崎市大坪池
五感で感じる春の足音 豊かな里山、小さな命躍動
宮崎市の市街地には珍しく雪交じりの寒風が吹いた12日早朝、郊外のあぜ道を歩く人々の光景があった。宮崎市生目の丑山池周辺の自然を観察する丑山自然観察会(猪崎隆代表、25人)が今月、発足丸20年を迎えた。この日も会員ら17人が季節の移ろいを五感で感じていた。野焼きの跡に薄紫の花を咲かせるホトケノザ、木の皮から姿を見せるゾウ虫…。長い冬からの解放を喜ぶかのように小さな命が躍動していた。
同観察会は、身近な自然に親しみながら交流を深め、自然と人間のつながりを理解し、その尊さを再発見する趣旨で1991年に始まった。毎月第2土曜日の早朝、大塚台団地の西にある丑山池周辺を観察。池から生目神社方面へ流れる生目川沿いの田畑や西側に広がる里山など、約1キロをゆっくり歩きながら野鳥、植物、昆虫、気象の記録を続けている。これまでに124人が参加、植物約300種、野鳥115種、チョウ約50種、トンボ約20種を確認した。
会員は自宅周辺の情報も猪崎代表(62)に報告。1週間分をまとめて毎週月曜日に「がまずみ日記」としてメールやファクスで会員に届く。通算607号になり、会の歴史の長さを物語る。
猪崎代表は「一見無秩序に見える自然界も、事象や現象を整理分析すると規則性が見える」と記録する意義を強調。渡り鳥と鳥インフルエンザの因果関係について「複雑な自然のメカニズムを具体的にするため、渡り鳥の個体数や気象の年別記録を広範囲で継続すべきだ」と提言する。
15年前から同市大坪町の大坪池周辺も観察する。会員の川野日郎さん(73)がクイナ類のオオバンの親子を見つけ、日本最南端の繁殖を確認したのがきっかけだ。
宮崎市出身で愛知県に住む会社員橋口知弘さん(26)は小学生時代から兄弟で参加。「鳥や昆虫の不思議さが子供心に興味を誘った。観察会は心のバックボーンで神聖な宝だ」と語り、毎年、会員のカレンダー制作に兄弟で加わり交流は今も続く。高校時代に母親と参加していた大学生平原日陽さん(20)も里山の自然の豊かさに心打たれた一人。今は宮崎大学野生生物生態調査研究部に入り、昨年2月から観察会と合同の調査に取り組んでいる。
昨年、丑山自然観察会の活動は、環境保全に取り組む団体として、宮崎市から「みやざき環境パートナーシップ推進事業」に認定された。若者は市街地周辺の自然豊かな風景を新しい感覚で見つめ、年配者は動植物の知識を伝える。春の足音が聞こえだした迫田や里山に明るい談笑の声が響く。