電球の明かりを頼りにはえ縄を海に投入する。船は白い軌跡を残しながら夜明け前の海を進む=15日午前5時50分、都農町沖
旬の味これから本番 県内フグはえ縄漁解禁
見た目に似合わず高級なフグのはえ縄漁が今月1日、県内一斉に解禁された。もちもちした食感に、気品ある味わい。刺し身や天ぷら、鍋の具材と県産フグの人気は高い。冬場の旬の味を食卓に届けようと、漁師たちは船を出す。漁の様子をカメラで追った。乗船したのは都農町漁協所属の福丸(4・94トン)。船主の山下道行さん(59)と午前4時に出航した。漆黒の海上を進み沖合約10キロの漁場に到着すると、準備したはえ縄の投入作業が始まった。
鉢と呼ばれるざるに入っているはえ縄は長さ600メートル。6メートル間隔で枝縄が付き、その先の針にサバの切り身が刺してある。全部で24鉢分を投入、はえ縄の総延長は約15キロに。投入が終わるまで約1時間かかり、そのころには東の空が白んできた。西のほうにはかすかに町の光。「あれは美々津の町じゃ」と山下さん。
朝食を手短に取ると、はえ縄の巻き上げが始まった。高まる期待に反して、揚がるのは“外道”ばかり。お目当てのフグはクロサバフグ(通称青フグ)が時折交じるだけ。「明日は漁場を変えるか」。燃え尽きてフィルターだけになったたばこをくわえ直し、山下さんがつぶやいた。
開始から20分、ひときわ大きな白い影が海中に見えた。「きた。トラじゃ」。ようやく山下さんの声が弾んだ。針から外そうとつかむと、トラフグは空気を吸い込み、体を膨らませ威嚇。山下さんはお構いなしにとげの生えた腹を素手でつかみ、お互いが傷つけ合わないように鋭い歯をペンチで切断し、素早くいけすへ。フグはしばらくふてくされたように浮かんでいたが、やがて観念したのか体をしぼめて泳ぎ始めた。
約4時間半かけてはえ縄を巻き上げると、昼前には港へ。この日の水揚げは23キロ。うちトラフグが5匹で4キロのみ。「今日は少なかった」と山下さんの表情はさえない。
県水産政策課によると、2007年の県内フグ類の漁獲量は69トン。同漁協と川南町漁協が約6割を占める。通称金フグ(シロサバフグ)や青フグは県内や福岡へ、トラフグは遠く大阪、東京まで出荷される。価格の下落や漁獲量の減少など、フグ漁の環境は厳しい。都農町漁協の黒木政次参事(59)は「冬に向けて価格は上がる。これからが本番」と期待を込める。
船を係留した山下さんは、本日2箱目のたばこに火を付けた。8時間に及んだ漁の疲れも見せず、黙々と2400本の針に餌を付けていく。明日の豊漁を祈って―。シーズンは始まったばかりだ。(写真部・成田和実)