出動には手袋やヘルメット、地図などが必携だ。いつでも出動できるよう自家用車に搭載してある
突発的出動に備え 認定6頭鍛錬欠かさず
災害時や遭難など行方不明者が出ると捜索隊の一員として活動する救助犬。人の1万倍ともいわれる鋭い嗅覚は広範囲にわたる捜索で本領を発揮する。まだ、本県での認知度は低いが、飼い主(指導士)たちは「救命の一翼を担い、一刻も早く関係者を安心させたい」と、突発的な出動に備えている。「愛犬を災害支援に役立てたい」との声の高まりを受け2003年8月、熊本市にNPO法人・九州救助犬協会(村上寅美理事長)が誕生した。現在、同協会では九州内の指導士55人と幅広い犬種の69頭を育成指導。本県では宮崎市と都城市に各1人、えびの市の2人、認定犬6頭が活動している。
救助犬は、幼い頃からしつけと訓練を2年ほど積み、試験に合格した犬。その後、指導士と共に救命活動に関わるが、鍛錬は日々欠かさない。指導士は日常から愛犬の健康や捜索意欲を保っておかなくてはならない。より高度な訓練を受ける場合は、本県に訓練所がないことから熊本県相良村にある同協会の訓練所に出向く。
訓練所近くの山林で遭難事故を想定した実地訓練があると聞き、同行させてもらった。空中を漂う浮遊臭を頼りに捜索する救助犬。伏せていたり、倒れていたりする人を見つけ、ほえて知らせるよう訓練されている。
捜索する上では悪条件だが、土砂降りの雨で本番さながらの状況が整った。遭難者役は居場所を分かりにくくするため、遠回りして目的地へ入り足跡を残さなかった。捜索開始から約10分。「ワン、ワン、ワン」と発見を知らせる鳴き声が響き、褒美のボールをくわえ戻って来た。同協会の開田宏訓練部長(49)=同村=は「山での遭難や広域災害で人海戦術にも勝る捜索が可能」と優位点を挙げる。
一方で、「要請がなければ出動できない。捜索隊との情報共有が必要不可欠」と課題も指摘する。大規模災害での迅速な救助活動に向け、各自治体と事前協定を結ぶが、九州では本県と大分県が未締結だ。県危機管理課では「話は頂いている。必要性など精査している段階」としている。
開田部長は東日本大震災の発生直後に9頭の救助犬を連れ現地に向かった。だが、災害時の協定がないため救助犬の役割や協会の説明に時間を取られ捜索までに丸一日を要したという。
救助犬育成と捜索で15年の実績があるえびの市原田、自営業脇田徹美さん(63)は「まず、救助犬の存在をもっと多くの人に知ってもらいたい」と願う。捜索は救助犬ともども危険を伴う。会員は「ボランティアだがプロ意識で活動している」と口をそろえた。