救命講習に聞き入る宿泊施設のチームリーダーやマネジャーたち。客の命に関わるため表情は真剣だ
救命切り札3000台配備 導入費や夜間利用課題
心肺停止状態の人に電気ショックを与えて救命する自動体外式除細動器(AED)。一般市民が使えるようになって7年、本県でも生存率向上につなげようと普及が進む。しかし、高額な導入費や使用法、設置場所の啓発不足など課題は多い。9日は「救急の日」。1人でも多くの命を救うためAEDをどう活用すればいいのか、現状を探った。AEDはポータブルな医療機器で、電極パッドの装着や電気ショックの指示など音声ガイドに従って操作する。心臓が細かく震え、血液ポンプの機能を果たさなくなった状態「心室細動」を起こしているときに効力を発揮する。県内では現在、大手メーカー2社だけでも設置数は約3千台に上り、公共施設や病院、大型ショッピングセンターなどで目にする機会が増えている。
普及のネックは1台約30万円と高額な導入費用だ。霧島連山の麓、都城市高野町の特養「長遊園」(森本日良雄施設長、60人)は9月1日設置したばかり。飲料用の自動販売機2台を1台に減らし維持費を節約、売上手数料をリース代の一部に充てるなどして工面した。市内中心部の病院から車で30分と離れており、森本施設長は「利用者の高齢化が進み心配だった。導入できてよかった」と安堵(あんど)する。
設置台数は増えても夜間の利用に問題が残る。設置施設の大半が昼間営業だからだ。神奈川県大和市は24時間営業のコンビニエンスストアに目を付け問題解決を図る。市内全約80店舗を網羅する考えで、まずは9月中に3社50店舗に設置する。同市消防本部救急救命課の矢部一登係長は「コンビニに駆け込めば、いつでもAEDがあると市民に分かってもらえる」と話す。
使い方の普及も重要な鍵。宮崎市消防局は年500回以上の救命講習を開き、市民に早期救命処置の重要性を訴える。同消防局警防課の田口直樹主査は「AEDだけでは人命は救えない。心肺蘇生法と併せて使い方をマスターしてほしい」と呼び掛ける。
講習では、心臓や呼吸が止まった場合「5分以内の処置が大切」と、時間の経過とともに救命率は急激に低下することを説明。119番通報から救急車が現場に到着するまでの県内平均時間は9・2分(2010年)のため「救急隊を待つ間の処置が生死を分ける」と力が入る。
誰もがAEDで救える命に遭遇するかもしれない。不測の事態に備え、設置場所を確認し使用法を学ぶなど危機意識を高く持っていたい。