大きく翼を広げ、雄大に飛行するオオワシ。若鳥とはいえ、猛きん類を代表する鳥としての風格は十分だ
巨大くちばし力強さ 地元「新名物来季も」
昨年12月下旬。日南市宮浦の国道に、動物の死体をついばむ数羽のカラスがいた。その中のひときわ大きな1羽が目に飛び込んだ。車を路肩に止め様子を見ると、太い足でがっちりと獲物をつかみ、歩道の手すりにふわり。はやる気持ちを抑え、慎重にシャッターを押す。程なく2メートルほどの翼を広げ、眼下に広がる日向灘へと飛び去った。同市での取材を終え、帰社する途中だった。初めて遭遇した大きすぎる鳥に驚き、興奮は収まらない。社に戻り猛きん類に詳しい猪崎隆さん(61)=宮崎市=に確認すると、オオワシだった。オホーツク海の流氷の上を舞う姿をテレビで見たことはあるが、まさか宮崎まで飛んでくるとは。近くの住民に聞くと、同11月下旬から時折見掛けるようになったらしい。
オオワシは環境省のレッドデータブックで絶滅危惧(きぐ)II類に指定される、国の天然記念物。夏季は、カムチャツカ半島やオホーツク海沿岸などロシア東部で繁殖。冬季には越冬のため北海道や北日本に飛来する。関東以西での目撃は少なく、県内への飛来報告はこれまでなかった。
飛来したオオワシは人に対して警戒心が弱く、尾羽に白い部分が少ないことから若鳥と見られるという。それでも手すりに止まる姿は、小学校低学年の児童と見間違えるほどの大きさ。巨大なくちばしやつめは、成鳥と変わらない力強さを感じさせる。
オオワシに詳しい北海道の日本野鳥の会十勝支部長、室瀬秋宏さん(51)は「水場、高い木のそばを好む習性がある。餌場を求め南下するうちに、条件に合う日南海岸にたどり着いたのでは」と話す。
オオワシを一目見ようと、同所周辺には双眼鏡やカメラを手にした多くの野鳥愛好家が詰め掛けた。公務員岩切辰哉さん(45)=宮崎市=は週1回ペースで近辺を夫婦で訪ね、観察を重ねた。「オオワシは猛きん類の代表格。地元宮崎で間近に見られたことに感動です」と興奮気味に話す。鵜戸漁港で働く関谷正さん(47)は「見慣れたトビと比べ、明らかに大きな鳥がいるなとは思っていた。新しい鵜戸名物になった」と笑う。
年明け後、目撃情報は激減。室瀬さんは「より良い餌場を求め、ほかの場所へ向かったのでは」と推測する。そして「来シーズンにも同ルートをたどり、再び訪れる可能性もある」と付け加えた。「日南海岸を気に入っただろうか、また来てほしい」。野鳥愛好家、地元住民らは来季の再会に期待を寄せている。(写真部・木上友貴)