細島の町並みと港。古くから漁業をはじめ、交易や商業の港としても栄えた

うまさ凝縮した海の恵み

 鮮やかな海の青、潮の香りが心地よい。港町の景色を求め、県内沿岸部を訪ね歩き、日向市の細島港にたどり着いた。周辺を散策すると、どこか懐かしさを感じる魚の干物作りの真っただ中。深まりゆく秋、豊かな海の恵みを味わうための作業にはもってこいの時季を迎えた。

 同市漁協によると、同港では昨年、約1800トンが水揚げされた。停泊中の漁船を背に、水揚げ場近くの作業場でせっせと魚を並べていたのは、この道40年の児玉ヨシ子さん(77)。

 港で揚がった新鮮なカマスやタチウオの骨と内臓を丁寧に取り除き、塩を振った後、30分置いて水洗いする。児玉さんの場合、気温27度前後の日を狙い干す。身に適度な水分を残した状態で乾燥させるためだ。

 開いた魚は、1メートルほどの高さに張った金網に整然と並べる。日差しをいっぱいに浴びた身が輝いている。

 並べ終えると、魚に虫が寄らないよう二重に網をかぶせた。干し魚は主に知人に販売し、通行人が「きれいに干してあるね」と感心して購入することも。

 これからが繁忙期という児玉さんは「寒い季節こそ乾きが良くておいしくなる。体力的にきつい時もあるが、お客に喜んでもらえる限り続けていきたい」と笑顔で話した。

 細島港周辺では他に数カ所で作業を見掛けた。同市内で鮮魚店を営む上原弘次さん(75)も以前、同港から1キロほど東に位置する御鉾ケ浦で干物作りを専門にしていた。

 上原さんは「昔は近くに4、5軒は干物を作る人がいたが、皆やめてしまった。水揚げ量が減ったり、後継者問題だったり理由はさまざまだったと思う」と振り返った。

 取材後、児玉さんから干物を頂いた。ふっくらとした身は、ほどよい塩加減がご飯に合い、箸が進む。大切にしていきたい味だと考えながら、磯の香りをかみしめた。

【メモ】明治時代に政府が漁業の近代化に向けて法整備などに動きだした頃、細島でも組合や市場が設立設置された。捕鯨も盛んに行われていた。港付近には解体所があり、多くの人が手動で巻き揚げた鯨を解体士がさばいていたという。