細い路地が入り組んだ住宅街の一角にあり、創業当時の外観を残す古澤醸造
守り続ける手作り仕込み
むき出しの木の柱や梁(はり)、くすんだしっくいの壁に囲まれた仕込み蔵に、甕(かめ)がずらりと並ぶ。日南市大堂津の古澤醸造(古澤昌子代表)。10月初めに芋焼酎の仕込みが始まり、蔵では従業員が甕に入った「もろみ」を混ぜる櫂(かい)入れに追われる。その様子は、1892(明治25)年の創業以来、変わらず続く光景だ。古澤代表の曽祖父が、焼酎蔵を営んでいた実家からのれん分けを受け、個人で開業。大堂津駅から近く、路地が入り組んだ住宅街の一角に構えた同醸造の建物は、創業当時の姿を残し、仕込み作業も昔ながらの手作りにこだわって機械化を最小限にとどめてきた。
焼酎の仕込みは、蒸した米に麹(こうじ)を根付かせる「製麹(せいぎく)」、酵母を培養する「一次仕込み」などの工程があり、温度、湿度管理が重要な要素。中でも、「品質を左右する製麹の際は特に気を遣う」(古澤代表)という。
麹菌を育て、菌糸を米の内部にしっかりと根付かせながら、胞子が飛ばないよう育ちすぎを抑える必要がある。創業時から使われる製麹用の「室(むろ)」はエアコンもなく、あるのは小窓だけ。窓の開閉で小まめに室温を調節しながら、従業員の“手入れ”で最適な環境を整えていく。
製麹の最終段階、室から麹を出す際は温度を下げる必要があり、気温の低い午前4時に作業。甕で酵母を培養する一次仕込みは櫂入れを4時間おきにこなすなど、手作りならではの手間暇がかかる。「機械化すれば、1人でも焼酎造りはできる」と古澤代表。それでも手作りにこだわるのは、「気候の変化を感じて味が決まるのが、うちの味。すべて機械化してしえば、その味が出せなくなる」からだ。
2000年以降、焼酎ブームも追い風に全国へと販路を拡大。現在は、海外進出も視野に入れる。古澤代表は「時代の流れに対応しながら、手作りの味も守りたい。その味を、日本だけでなく、海外の人にも楽しんでもらえれば、こんなにうれしいことはない」と語る。
【メモ】 県酒造組合などによると、県内の焼酎製造会社は37社。このうち日南市に10社、串間市に3社あり、県南地域で3分の1以上を占めている。特に、古澤醸造がある日南市大堂津は醸造業が盛んな地域として知られる。同地域に醸造会社は5社あり、焼酎だけでなく、しょうゆやみそ、酢なども製造している。