収穫されたスイートコーンは鮮やかな黄緑色。収穫後すぐに水を掛け、冷やすことでさらに甘みを引き出させている

甘み引き出す深夜の収穫

 午前0時すぎ、暗闇の中で作業が始まった。初夏に収穫の最盛期を迎えるスイートコーン。6月上旬、西都市上三財の畑では、生産者が着けたヘッドライトの明かりが、大人の背丈ほども伸びた茎葉を照らし出していた。しんと静まりかえった畑にガサガサと葉をかすめ、実をもぎ取る音だけが響く。空が白んでくると、作業は終わり。日が昇り気温が上がると実の糖度が下がるため、夜明けまでの数時間が勝負となる。

 同市でのスイートコーン生産は1967(昭和42)年、水田転作として始まった。豊かな土壌と水資源が栽培に適し、国内で当時、“コメ余り”が叫ばれ始めたことも背景に、生産者が増加。現在は240戸の農家が、年間約千トンを県内のほか、関東を中心とした県外に出荷する。

 「ここ何年かで一番の豊作やわ」。同市上三財の畑で、蛯原芳朗さん(56)は笑顔を見せた。今年は種をまいた2月初めから、天候に恵まれた。茎葉が伸び、実が大きく育つまで約120日。「極端な冷え込みもなく、雨量、日照時間ともに栽培にとっては申し分ない日が続いた」という。

 収穫は一晩で1500〜2千本。日中は実を収穫できるかどうかを厳選する作業に追われる。房の中の実が先端まで詰まっていれば糖度が高い証拠。それを一本一本手で確かめていく。「毎日畑に通うと、作物の声が聞こえてくる。育てるからには一番おいしい状態で収穫してあげたい」と手間を惜しまない。

 蛯原さんの畑は2カ所で約90アール。普段は1人で作業しているが、繁忙期だけは別の仕事に就いている3人の子どもたちも駆け付ける。蛯原さんは「1人じゃとても収穫しきれない量やから。子どもたちには本当に感謝している」と目を細める。

 東の空が赤くなり始めた頃、スイートコーンで満杯となったコンテナをトラックの荷台に積み込む。自宅の倉庫に戻ると休む間もなく出荷準備に取り掛かる。「ここのスイートコーンが一番と直接買いに来てくれる人もいる。おいしいと言ってくれる人たちの期待に応えるためにも毎年気が抜けんよ」。そんな思いを込め、一本一本丁寧に箱詰めしていった。

【メモ】 日照時間が長く温暖な気候の本県は、全国でも有数のスイートコーンの早出し産地。県内全域で収穫され、「ゴールドラッシュ」という品種が主に栽培されている。他の品種に比べぎっしりと実が詰まり、強い甘みが特徴。糖度は15度以上にもなり、メロンやマンゴーにも劣らない。