網から外されかごに投げ込まれたイセエビ。大物が取れると笑顔がこぼれる

闇夜照らす漁師の日課

 ひんやりした秋風が吹き始めた宮崎市の内海港。深夜1時すぎ、イセエビ漁を終えた船が続々と帰港してきた。人けの無かった港は急に活気づき、漁網に絡まる海の幸が次々と水揚げされていく。下船した漁師たちは疲労した体を休める間もなく、繊細さが求められる漁網の手入れに取り掛かった。裸電球の明かりに照らされた作業小屋でせわしなく働く姿は、イセエビ漁の季節の訪れを感じさせる。

 例年9月に漁が解禁し、にぎわう同港。昭和初期は材木船などが行き交う商業港として栄え、戦時中は軍艦が停泊することもあった。現在は宮崎市漁業協同組合(矢部廣一組合長)管轄の漁港として7隻の漁船が所属。宮崎市沖を中心とした漁場で曳(ひ)き縄や底引き網、建網を駆使した漁でカツオやハモ、カサゴなど季節の旬の味が水揚げされる。9〜10月は磯建網漁がメイン。岩場に潜むイセエビを縦約1・5メートル、横約30メートルの網で狙い、同港では一晩で200キロ以上の漁獲を揚げる日もある。

 「なぎにしか取れない魚もおれば、波のある時しか取れない魚もおる。漁業ってのは難しい」と話すのは、同市内海でこの道70年の大ベテラン住定力雄さん(87)。住定さんはイセエビの動きが活発になる午前0時ごろ、港から20〜30分の漁場に仕掛けた建網を引き揚げに行く。「今日は全然だめじゃわ」と普段の同港の漁獲の約半分、77キロの収穫に住定さんは苦笑い。回収された網は岩場に引っ掛けたりイセエビを外す際に破けたりしており、漁の壮絶さを物語る。作業小屋に戻ると妻カズ子さん(80)や仲間の漁師たちと網の傷みの確認など一斉に手入れに取り掛かった。

 朝日が昇るころ、再び港を訪れると漁網の補修をする住定さんの姿があった。専用の修繕針を使い、慣れた手付きで元通りに縫い上げていく。「若いころはこの作業が苦手でね。きれいな網で漁に出ると気持ちがいいわ」と目を細めた。次の出港に向け、大漁の願掛けをするように今日も網の手入れに精を出す。

【メモ】夜行性のイセエビは、月夜の明るい晩は活動が鈍る。内海港では月が明るくなる旧暦の10〜20日は漁に出ないことになっている。宮崎市漁業協同組合では24日に「青島いせえび祭り」を同市青島の青島漁港で開催。イセエビみそ汁の振る舞い(500食)や鮮魚、加工品の販売もある。問い合わせは同組合青島本所(電話)0985(65)1011