「天の磐船」への途中、下から見るのとはまた違った矢研の滝が楽しめる

ニギハヤヒが乗ってきた大岩

 天孫ニニギノミコトの降臨とは別に、地上に降り立ったとされる兄のニギハヤヒノミコト。ニギハヤヒが乗ってきた「天(あま)の磐船(いわふね)」の名残と伝わる大岩が都農町の尾鈴山(1405メートル)山中にある。

 児湯郡の中央部に位置する同山では、神武天皇が東征へ向かう前、戦士たちに矢尻を研ぐように命じたという矢研の滝(高さ73メートル)が名所として親しまれる。同滝より手前、若葉の滝の左手にある長い階段を上がり、矢研の滝の200メートル上流の矢研谷に向かうと、川岸にへさきを少しもたげた船を連想させる大岩が見える。

 高さ・幅3メートル、長さ12メートル。対岸からだとさほど大きさを感じないが、近寄るとこけむした岩肌は厳かな雰囲気を漂わせている。

 磐船で降臨したニギハヤヒはなぜこの地を選んだのか。元町史編さん室執筆者の古川忠さん(91)は「天空から見たとき、壮大で美しい矢研の滝が目印になったかもしれない」と想像を膨らませる。

 農業の傍ら造林作業にも関わり、以前よく山に入ったという黒木文雄さん(77)は「岩のそばに近づくと自然と神聖な気持ちになった。中央に2、3本の木があり、まるで帆柱のようだった」と振り返る。

 昭和初期には、滝より手前にある現在の尾鈴キャンプ場に小学校の分校があった。卒業生の一人、永友トミ子さん(83)は「遠足はいつも磐船だった。秋にはアケビ採りに行ったりした」と懐かしむ。

 絶え間なく流れる渓流の音を聞きながらたたずみ、存在感を放つ大岩。永い歳月、神話の語り部として朽ち果てることを拒否し続けてきた船が、自らの意思で原形をとどめているかのような力強さを感じた。

【メモ】尾鈴キャンプ場から矢研の滝方面へ向かうと、45分ほどで矢研谷に到着する。途中通るトロッコ軌道跡では、上から見た矢研の滝の様子が楽しめる。都農町観光協会TEL0983(25)5712。