雨よけと寒さ対策を兼ねるビニール袋。つぼみがしっかりしたものを選び、傷つけないよう慎重に袋を掛けていく
手間かけ最高の風味と食感
粉雪が舞う薄暗い林の中で、シイタケのほだ木が整然と並んでいる。厳しい寒波が訪れた1月半ばの諸塚村。ほだ場には雲の切れ間から朝日が差し込み、帽子のように積もった雪がキラキラと輝いていた。昨年12月に世界農業遺産認定を受けた「高千穂郷・椎葉山地域」の一角をなす同村。村史によると、村では300年以上前からシイタケ栽培が始まり、明治期に盛んに行われるようになった。種こまを使う現在の栽培形式は戦後すぐに始まったという。乾シイタケ生産量は78トン(2013年)で、県内生産量の約13%を占めている。
県内のシイタケ収穫最盛期は春先と秋口で、寒さが厳しい今は成長が遅い。しかし、じっくり成長するだけに身が詰まった肉厚の上質シイタケができるのも、この時期の特徴だ。栽培歴50年の奈須高光さん(66)=同村家代=によると、花のように白い割れ目が入った最上級の天白香菇(てんぱくこうこ)になるのは全体の2割。「きれいな割れが入るには寒暖の差が必要。生用シイタケは1週間ほどで収穫できるが、乾燥用はその倍から1カ月かかる」と苦労を語る奈須さん。雨よけと寒さ対策を兼ね一個一個ビニール袋を掛けるなど手間暇を惜しまない。妻のソヨ子さん(61)は袋掛け作業を続けながら「つぼみがしっかりしたものを見分けることが大切」と優しい笑顔で答えた。
シイタケは年中収穫できる屋内の菌床栽培が主流だが、同村では風味と食感に勝る原木栽培が続けられている。村やJA、森林組合などは1990年に「椎茸原木銀行」をつくり、生産者が必要とする原木の需要と供給を調整し、庭先への原木運搬まで請け負う。こうした村独自の取り組みも生産を支えている。
しんしんと降る雪の中、袋の中はちょっとだけ暖かい。愛情をかけられて育つシイタケの姿はりりしく見えた。
【メモ】諸塚村の地場産品を取り扱う「もろっこはうす」は21日に国道327号沿いの新店舗に移転オープンした。同村で生産されるシイタケの他、旬の野菜、手作りみそやこんにゃくなどの加工品も並ぶ。同店舗、諸塚村家代2640の3(電話)0982(65)0264。