自家栽培のユズ。皮を細長く切り、干し柿と重ねていく
山々に囲まれ色、味深める
柔らかな日差しに照らされ、丸々とした渋柿が「のれん」のように連なる。日之影町七折の松の内地区では冬の風物詩、干し柿作りが最盛期。寒さが強まるにつれて鮮やかさと水分を失い、表面には果糖の白い粉が現れる。郷土の銘菓「柚子(ゆず)柿」の主材料となる干し柿は、急峻(きゅうしゅん)な山々に囲まれた集落で、色、味ともにじっくりと深まっていく。毎年約4トンの干し柿を生産する同地区の農林業佐藤功さん(59)一家。父の泉さん(83)がユズを触った手で干し柿を食べた際「爽やかな風味が柿の甘さに合う」と気付き、1975(昭和50)年ごろから柚子柿作りに着手。以降注文が相次ぎ、大量の干し柿を作るようになった。
標高370メートルに位置する同地区。山あいの集落の日の出は遅く、日が差し始めるのは午前10時ごろ。冬季の短い日照時間を有効に使おうと、干す場所にも気を使う。11月初旬、稲刈りを終えた最も日当たりの良い棚田に長さ18メートル、幅5・4メートルのつるし柿用の施設を設置。上部はビニールで覆い、野鳥などの侵入を防ぐため側面には網を張る。湿気取りの目的で地面にわらを敷く念の入れようだ。甘味をより多く引き出すため、10日置きに手でもみ、約40日かけて干し柿が完成する。
独特の風味を出すユズは自家製。柿は自家農園のほか、西臼杵郡内や県外からも収穫している。
年が明けると柚子柿作り。丹精した干し柿を切って種を取り、ユズの皮を間に挟みながら丁寧に重ね、わら縄で巻き締める。1月下旬から同町道の駅やデパートなどで販売される。
「今年は暖冬の影響が大きく、出荷量が減少しそう」と心配する功さん。「『柚子柿を作り続けて』という声が励み。根気は要るが、やりがいがある」と自負する。自然の甘味と風味が人気の柚子柿。心を込めて手作りされた一つ一つに、佐藤さん一家の温かい気持ちが詰まっている。
【メモ】柚子柿は当初、直接竹の皮で包んでいた。現在はビニールで密封し、干し柿同士をより密着させるため、最後はその上から3メートルの自家製わら縄できつく巻いていく。一度開封したら冷蔵庫など涼しい場所での保存が望ましい。