皇子港の対岸にある「アマノイワト」。高さ5メートルの岩の裂け目からも水が湧き出る
神武天皇が幼少時遊んだ地
月明かりのない冬の未明、高原町蒲牟田の御(み)池(いけ)のほとりは、風がやみ、凜とした空気が漂っていた。星空が広がり、高千穂峰のすそ野の山影にオリオン座が姿を隠していく。遊覧ボートの係留場でもあるこの場所は霧島観光の景勝地の一つ。皇(おう)子港(じみなと)と呼ばれ、カムヤマトイワレビコノミコト(神武天皇)が幼いころに遊んだ地といわれている。町観光協会によると、高千穂峰の東にある御池は周囲4キロ、深さ103メートルと日本で最も深い火口湖。辺りは天然のカシ、タブ、イスなどの広葉樹が広がり、オオルリ、キビタキ、ヤイロチョウなど約130種の野鳥が生息する。「野鳥の森」として1972(昭和47)年、国の第1号指定を受けている。
同協会の有馬定治さん(44)の案内で日中、皇子港の対岸に位置する松港(まつのみなと)を訪ねた。赤松の広がるキャンプ場から3分ほど歩くと、幅3、4メートル、高さ5メートルほどの滝が現れた。このような滝が池の周りにいくつもあり、豊かな水が注ぎ込んでいるという。滝の横に高さ5メートルほどの岩の裂け目がある。気になって身を乗り出すと、有馬さんは「地元では『アマノイワト』と呼ばれ大切にされている」と話してくれた。
同町祓川の区長、西川嘉宏さん(69)は、華やかだったころの皇子港を回想。「昭和50年ごろまでは遊覧船も運航していた。夏祭りでは、スイカ割りをしたり、源平合戦を模して船上の扇の的を射ったりと大変にぎわった」と懐かしそうに声を弾ませる。
幾千もの星が空と湖面に輝く夜。水遊びをする幼時の神武天皇の姿が浮かんで見えた。
【メモ】御池のそばにある祓原(はらいばる)は、神武天皇が誕生した際に体を祓い清めた場所とされる。そこから流れ出る小川の水は神武天皇のお祓いに使われたといわれており、祓川(はらいがわ)の名が付いている。