集魚灯を投下し魚を集める灯船。海中を青緑色に染める光景は幻想的だ
闇夜浮かぶ銀鱗の光
銀鱗(ぎんりん)をひらめかせた無数のイワシが逃げ場を失い、一斉に海面へわき上がってきた。暗闇の日向灘近海を漁場に魚の群れを巨大な網でぐるりと囲い込む「巻き網漁」は、県北の漁師らが昭和初期から続けてきた伝統漁法だ。近年の水揚げはイワシやサバ、アジが中心。海の恵みは季節の到来を告げ、本県農業と共に日本の食卓を支えている。県内の中型巻き網船は網船、灯船(ひぶね)、運搬船と役割を分担し4、5隻の船団で漁を行う。6月半ばの夕暮れ時、宮崎港から延岡市北浦町北浦漁協所属の第六十八浩栄丸(宇戸田実也漁労長、19トン)に乗船して夜の海へ向かった。
魚の存在をキャッチするソナーと位置情報をリアルタイムで映し出すレーダーを頼りに航行すること約4時間。当たりを付けていた川南町の沖合約11キロで午後11時ごろ、イワシの漁場を確認した。
灯船が集魚灯を海中に投下し、潮流と魚の動きを読みながらゆっくり、少しずつ群れを一つの大きな固まりにしていく。荷揚げに要する時間と港までの運搬時間を逆算すると、午前3時が網入れの頃合いだ。「網を打つぞ」と宇戸田漁労長(34)が指示を出し、船員19人が一斉に作業を開始。長さ700メートル、幅100メートルの網が水煙を上げながら勢いよく群れを取り囲んでいく。円形に投網された帯状の網の底部をウインチで縛り上げ、巾着型にしてたぐり寄せていった。暗闇に輝く無数の魚体が激しく海面をたたく光景は圧巻だ。
本県の巻き網漁は、1928(昭和3)年に愛媛県から現在の延岡市島浦島に伝わったとされる。現在、15トン以上が11船団、15トン未満が2船団あり、資源保護のため時期ごとに定められた海域で操業。年間約3万トンを水揚げする。
延岡市の「ウルメイワシ漁獲量日本一」を支える巻き網漁だが、長引く燃油高に加え、今年に入っての魚価安に関係者らは危機感を募らせる。
県水産政策課によると、水産物の販売力を高めるために昨年4月、「県域的系統販売組織」を設立。県漁連を主体に各漁協、加工業者と連携し販路の開拓や新しい加工物を模索しているという。関係機関が団結した水産業を守る取り組みに、漁師たちの期待も高まる。
【メモ】巻き網漁でとれたサバやイワシ、アジは大きさによって鮮魚や干物、養殖の餌用に加工される。サバは、関西風うどんに欠かせない「さば節」が代表的。アジは活魚を1週間以上蓄養し、餌を絶った状態で出荷する「北浦灘アジ」がブランド認証を受ける。