晴れ間を縫って進むミヤザキハダカの収穫。刈り取りのタイミングが品質に大きく影響する

神話の台地、実る在来種

 朝空に向かって伸びる豊かに実った麦の穂。霧島連山の麓にはヒバリの声が響きわたる。高原町蒲牟田の農事組合法人はなどう(黒木親幸代表理事)が麦を育てている神話の台地は麦秋を迎えている。

 県内ではかつて、麦の栽培が盛んに行われていた。その中でも本県在来種の「ミヤザキハダカ」は1942(昭和17)年に県の主要農作物奨励品種に指定され、広く栽培されていた。58(同33)年の作付面積は1万9700ヘクタールもあり、現在の県内水稲作付面積1万8600ヘクタール(2014年度)よりも多かったことから、その栽培規模の大きさがうかがえる。しかし、安価な外国産麦の流入や食生活の変化、栽培の難しさなどによって衰退し、昭和の終わりとともに姿を消してしまった。

 そんな“幻の麦”を復活させたのは、麦焼酎を造り続けてきた柳田酒造(都城市)の代表柳田正さん(41)の原料麦への強いこだわりだった。

 県総合農業試験場に残されていた種もみの提供を受けて2007年から試験栽培。09年からはなどうが委託栽培を開始し、今では約4ヘクタールを作付けするまでになった。その麦で醸造された焼酎は従来の麦焼酎に比べ、香り高いものに仕上がった。柳田さんはミヤザキハダカの魅力を「地域性に加え、自然界で生き残ってきた在来種であること。そして昭和の終わりにかけて栽培された実績は高品質の裏付けだ」と語る。

 麦の栽培は冬場に2度の麦踏みが必要。収穫前には雨風による倒伏の心配があり、赤カビ病防止にも気を使うなど、品質管理には手が掛かるという。だが黒木代表理事(67)は「悪天候の際には畑を心配する連絡が依頼主から入り、熱意を感じる。それに応えるため、より一層良いものを作ろうと私たちも力が入る」と意欲的だ。苦労のかいあって今年も豊かに実り、5月中旬から収穫作業を始めた。

 蔵元の思いから復活を遂げたミヤザキハダカとそれを可能にした官民協力、そして企業と連携した6次産業の取り組みに、農村活性化の可能性を感じた。

【メモ】農事組合法人はなどうは2008年設立。地取れ野菜や加工品を販売する直売所「杜の穂倉」が人気を集めるほか、県内の地ビールや日本酒メーカーとの共同開発にも取り組んでいる。14年には国の「ディスカバー農山漁村の宝」に選定された。同法人(電話)0984(42)1839。