取水口から約2キロに及ぶ古森用水路。田んぼに水を引くため、たまった落ち葉や砂利などを取り除く

石垣の棚田守り原風景残す

 季節は春から夏へ。県内で普通期水稲の準備が進み、里山でも繁忙期を迎えている。石垣の棚田が印象深い、延岡市北方町の石上地区では日々変化する水田の様子に人々の慌ただしさを感じさせられる。昭和から平成に元号は変わり、四半世紀が過ぎた。全国で中山間地の人口流出や高齢化は土地の荒廃だけでなくさまざまな問題を引き起こし深刻だ。同地区も同じ問題を抱える小さな集落の一つだが、時代の波にあらがい昔ながらのふるさとの光景を守り続ける。

 石上地区は五ケ瀬川に注ぐ曽木川の谷あい約10キロ上流に位置。青々と茂るシイやタブノキは風に揺れ、雨を呼ぶカエルの鳴き声が響き渡る。家々の南側に広がる棚田は大小、形もさまざまで約80枚、計4ヘクタールに及ぶ。起源は中世とも、それ以前ともいわれているが1954(昭和29)年12月の大火で史料は焼失した。地元の菊池喜兵恵さん(85)によると「墓碑に『元禄』の文字がある。最低でも300年以上前には人々が住んでいたはず」と歴史をさかのぼる。

 時代の変遷と共に変化した主要産業は昭和に入り木炭、製材、パルプ、シイタケと移ったが稲作は人々の営みの柱となり、変わらぬ光景を人々の心に刻み込んできた。しかし、5年ほど前に収穫後の掛け干し作業を断念。高齢化と人口減少の余波は、棚田に休耕地をつくり始めた。

 現在、米作りは同地区の12戸で行っているがほとんどが65歳以上という。5月11日、田植えの準備始めに、取水口から約2キロにわたって続く古森用水路の清掃「井堰(いぜ)さらい」を同水路組合(甲斐一男会長、12戸)で行った。数センチから数十センチの石や砂利、落ち葉を引き上げる。「祖先が人力で切り開いたこの地は血と汗の結晶。やれる限り、守っていく」と山本重光さん(64)は清掃に込めた思いを語った。

 「お盆には竹灯籠で送り火をし幻想的な光景が広がる。春夏秋冬それぞれの表情が棚田にはあるので、地区外の人にも四季折々の棚田を見てもらいたい」と甲斐会長。夜明け前、月明かりを遮る厚い雲は谷あいの棚田を覆い、恵みの雨をもたらした。

【メモ】石上地区を眼下に望む茶臼山(714メートル)。中腹の崖には半分ほどせり出し、グラグラと動く巨石(長さ約3メートル、高さ約1.5メートル)がある。「鬼が茶をひいた」との伝説から「茶臼石」と呼ばれる。見学は延岡市北方町総合支所地域振興課(電話)0982(47)3600まで。