シダやコケ類が宿り、樹皮を覆う

悠久の時を超えみずみずしい生命力放つ

 「やまんかみ(山の神)」―。都農町の尾鈴キャンプ場に鎮座するモミの巨木「尾鈴大山神」は、古くから地元住民に親しまれている。朝もやの中からヌッと頂部をのぞかせる姿は、悠久の時を生きた威厳を放つ。根元から見上げると、太い枝が複雑に絡み合い、シダなどを宿した幹からは生命力があふれる。

 尾鈴大山神は樹齢は不詳ながら、樹高27メートル、幹回り471センチもある。次世代への遺産として国有林内の巨木を残そうと、林野庁が2000年、「森の巨人たち百選」に選定した。

 同キャンプ場周辺はかつて国有林伐採の拠点だった。最盛期には300人を超える林業従事者が生活し、小学校の分校もあったという。子ども時代を過ごした同町川北の長友裕明さん(73)は「作業の安全を願い住民が毎朝手を合わせた。木の周囲は静寂に包まれ、聖域のようだった」と懐かしむ。

 一時は樹勢の衰えを見せた山の神。町などによる保護活動も始まっている。07年には“治療”が施され、根を傷めないよう根元には保護木柵も設置された。また、巨樹周辺に季節の彩りを添えようと、児童によるヤマザクラやモミジの植樹も恒例に。尾鈴山の会の黒木秋嗣副会長(64)は「さらに整備を進め、尾鈴の自然の素晴らしさを感じてほしい」と目を細めた。

 林業の盛衰と共に歩んできた山の神。現在は、尾鈴の自然を楽しむ人たちの安全を見守る。尾鈴山系はこれから春山シーズン。今年も多くの登山客を迎えることだろう。(写真部・宮本武英)

【メモ】尾鈴キャンプ場周辺は九州自然歩道が整備され、矢研の滝をはじめとする滝めぐりが人気。4月29日には尾鈴山開き登山も開催される。都農町観光協会TEL0983(25)5712。