朝の搾乳を終え、暖かな日差しを浴びながら放牧場に座り込む乳牛。2月は乳牛にとって過ごしやすい季節だ
朝の光浴び 土の上ごろり
午前7時半。まぶしい朝の光の下、白黒ぶちのホルスタインが悠々と過ごしていた。新富町新田の片山裕久さん(60)が飼育する牛たちは、搾乳を終えたばかり。“朝のお勤め”の後は、広々とした放牧場で気持ちよさそうに寝そべったり、走り回ったり…。4年ほど前、自由に遊ばせようと放牧場を造って以来、そんな愛らしい姿を目にするようになった。同町の酪農家は現在8戸。片山さんは、妻・幾代さん(60)と長男・泰大さん(35)とともに約60頭を飼育する。
「ほらほら、行かんか」。午前5時半、泰大さんが、乳牛を放牧場から搾乳場へと追い込む作業に追われていた。牛が牧場と牛舎を自由に行き来できるため、そんな一手間がかかる。しかし、牛にとっては足腰が鍛えられ、ストレスも減るため、生乳の質が良くなるという。
乳牛が集まるまで、裕久さんは幾代さんと搾乳の準備。「ほいほい」と裕久さんが声を掛けて牛たちを並ばせると、慣れた手つきで乳頭に搾乳機を装着。乳の出ない子牛などを除く約40頭を、2時間ほどかけて3人で搾乳する。作業は朝夕2回。気温の低い2月は乳牛にとって快適な時季で、1日の生産量は、夏場の約1・4倍の1・2トンに上る。
裕久さんが家業を継いで約40年。忘れられないのが、2010年に県内を襲った口蹄疫だ。飼育していた全頭を殺処分。幾代さんも「思い出すのは今でもつらい」と表情を曇らせる。後継者もおらず、酪農をやめようとも考えた。その落ち込む姿に、熊本県で会社員をしていた泰大さんが帰郷を決意。「努力次第でいくらでも成果は上がる。一緒に頑張ろう」という言葉に背中を押された。
19年には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効予定で、酪農の経営環境は厳しさを増す。それでも、「息子のおかげで随分楽になった。3人で元気に酪農を続けたい」と裕久さん。今日も親子3人、早朝から乳牛の世話に汗を流している。
【メモ】 県内の酪農家は252戸(2017年2月1日現在)で、1万3700頭の乳牛が飼育されている。生乳生産量は8万4955トン(16年)。新富町では、口蹄疫後、酪農をやめたり、繁殖農家へ転換したりする農家が出たことで、乳牛の飼育頭数は09年度の約680頭から627頭(17年2月1日現在)に減った。