夕焼けと電照の明かりでオレンジ色に染まった木花地区の田園地帯。幻想的な光景は2月末まで続く

冬場成長促す暖かな光

 宮崎市木花地区に広がる田園地帯。夕日が沈み、辺りが薄闇に包まれる頃、整然と並んだビニールハウスにオレンジ色の明かりがともる。同地区は県内屈指のイチゴの産地。11月中旬に電照栽培が始まると、暖かな光が暗闇に浮かぶ幻想的な光景が翌年2月末まで続く。

 「一作14カ月」といわれるイチゴ栽培。3月から10月中旬まで苗作りと定植に追われ、11月末から翌年5月の収穫期の間にまた苗作りが始まる。電照栽培は、日照時間の短い冬に光を当てることでイチゴの成長を促す重要な工程の一つ。夕暮れから2、3時間明かりをともす「日長延長」、午後10時頃から深夜にかけて光を当てる「暗期中断」があり、農家はイチゴの生育状態を見極めながら、その時間帯を決めていく。

 木花地区の農家などでつくるJA宮崎中央いちご部会には約70人が所属。ピーク時に比べて減少したが、生産者は若手が多く、後継者も育つなど、産地としての勢いは衰えていない。

 若手生産者の1人、板倉直樹さん(36)は2009年、千葉県からIターン。移住の直前には、オーストラリアの農園で3カ月ほど働き、「広大な自然の中での生活が肌に合い、農業をしたいと考えるようになった」。生活環境や趣味のサーフィンを楽しめる立地、農業に適した温暖な気候…。就農先として「木花が最も理想的」に映った。

 当初は資金繰りや苗作りに苦しんだが、地元のベテラン農家たちが栽培技術を丁寧に指導してくれた。就農1年目から目標以上の収量を上げ、現在は年間5トン前後を出荷する。資材費の高騰や台風時の冠水など経営環境は厳しいが、「イチゴができた時の喜びですべて報われる」と笑顔を見せる。

 若手生産者19人が所属するJA宮崎中央南支店いちご部会青年部では、定期的に互いのハウスに足を運んでは情報を共有するなど、技術力向上に余念がない。板倉さんは「若手が切磋琢磨(せっさたくま)し、新しい技術に挑戦し続けることで、木花のイチゴ生産はもっと活発になるはず。九州で一番の産地にしたい」と未来を見据えた。

【メモ】 木花地区を含め、県央地域でイチゴ栽培が始まって約50年。現在は県内外へ年間約600トンを出荷している。同地域では「さがほのか」や「章姫(あきひめ)」のほか、大粒で甘みの強い「あまおとめ」「やよいひめ」の栽培戸数も増えてきている。