カタクチイワシを「すだい」の上に並べる女性たち。熟練の腕で手際良く作業を進めていく

繁忙期に光る熟練の技

 午前8時すぎ。延岡市・島浦漁港のそばにある「今原水産加工場」に、水揚げされたばかりのカタクチイワシ600キロが運び込まれた。パート従業員が、すぐに「素干し」作業に取り掛かる。銀色に光るイワシは約2日乾燥されると、お節料理の「田作り」用の素材として出荷される。

 島浦島は巻き網漁と地取れの魚を使った加工業が盛んで、添加物を使わないキビナゴやカタクチイワシの干物は関東、関西地域で人気が高い。

 同加工場も、干物の約半分を同地域に出荷する。繁忙期になると、作業は早朝から午後10時まで及ぶことも。島の若者が減り、人手の確保もままならないが、60〜80代を中心とした島の女性たちが、多忙な現場を切り回す。

 工場で働く女性約10人は、全員がパート。魚が競り落とされると、女性たち宅の電話が鳴り、それが“招集の合図”となる。冨田ユキノさん(83)は最古参のベテラン従業員。「毎日、朝ご飯を食べたら、すぐに着替えて電話を待っている」。そんな生活を50年以上も続けているという。

 長方形の木製の板に、すだれをかぶせた「すだい」の上に、体長5センチほどのイワシを並べて乾燥。すだい1台で干せる量は2、3キロ。仕入れ量は多いときで5トンに上ることもあり、息つく暇もない。短い時間で十分に乾燥させるには、イワシが重ならないよう並べるのがこつ。単純な作業に思えるが、スピードに加え、丁寧さも求められる。

 同加工場の今原賢滋会長(85)は「選別機ではごみやカタクチイワシ以外の魚を取り除くなど、臨機応変な動きができない。やはり、熟練の人の手が一番」と従業員への信頼は厚い。

 そんな忙しさの中でも、加工場内には、明るいおしゃべりが飛び交う。「元気でいられるのは、この仕事のおかげ」と冨田さん。「明日も早起きして電話を待っとくとよ」。作業を終えると、笑顔で同僚たちと家路についた。

【メモ】 島浦島では、カタクチイワシのほか、キビナゴやウルメイワシなどの水揚げが盛ん。漁業とともに水産加工業も発展したが、後継者不足などを理由に、業者が減少。昭和60年代に36軒あった業者は現在、17軒にまで減っている。水揚げされた魚は素干しや目刺し、顎刺しなどに加工され、県内外に出荷される。