収穫前の下準備で仮掘りされた早掘りタケノコ。一足早い春の味覚として珍重される

一足早く春告げる「黄金色」

 「ザクッザクッ」-。寒風が吹き込む静寂な竹林に唐鍬(とうが)を振る音が響く。手入れの行き届いたモウソウチクの林に目をやると、根元に小さな地割れが広がる。地中から顔を出そうとしているのは、一足早い春を告げる延岡市の「早掘りタケノコ」だ。仮掘りを終え根まであらわになったタケノコは、差し込む陽光に照らされ収穫の時を待つ。

 柔らかく、えぐみが少ない早掘りタケノコ。通常のものよりサイズは小ぶり、土中から掘り起こすため日焼けせず「黄金色」をまとう。同市では、JA延岡たけのこ部会(甲斐睦典部会長、22人)が生産。12月下旬から始まった収穫作業は、3月ごろまで続き、関東方面を中心に出荷される。

 同部会の副部会長、小野昭治さん(67)=同市細見町=は15年前からタケノコを生産、6カ所の里山を1人で管理する。1月下旬小野さんは、根から切り取る収穫の下準備「仮掘り」のため、早朝4時から同市小川町の竹林に向かった。早掘りタケノコは土中に隠れているため、事前に生えている所を確認し、スムーズな収穫ができるよう備えておくのだ。

 地面には12月、タケノコがありそうな箇所に竹の枝を差した「目印」が付けてある。これを頼りに注意深く掘り出し、再び傷まないよう埋め戻す。小野さんは「仮掘りは神経を使う重労働。収穫より大変」と汗をにじませる。作業に掛かると早速「てっぺんがあった」と小野さん。穴をのぞくと、タケノコの先っぽがチラリ。「先端がこっち向きだから、根っこはここだね」。曲がって生えているため、長年の勘が物を言う。傷つけないよう、小さな道具に持ち替え掘り進めるとあっという間に見事な「黄金色」が姿を現した。

 収穫などは全て手作業。約20キロ分のタケノコを背負い、急斜面を往復する。体力勝負だが、同部会員は60代以上と高齢、腰の痛みに悩む小野さんも、来年は管理する竹林を減らす予定だ。それでも「竹林は手入れしないとすぐに駄目になる。先祖代々引き継いだ山は最後まで守りたい」と熱意は健在。地面に勢いよく唐鍬を突き立てた。

【メモ】 早掘りタケノコは12〜3月ごろに収穫するモウソウチクのタケノコ。JA延岡では「早掘りたけんこ」の銘柄で取引される。地表に先端が出ない状態で掘られたものが「A品」とされ、湯がいて刺し身風にするほか、姿焼きなどに調理される。今年は収量が期待できる「表年」に当たり、JA延岡は約8トンの出荷を目指している。