矢野助教を先導に、制服のままグラウンドをランニング。実は、生活の緩みを正すためのペナルティー
即戦力目指し猛訓練 規律守り心身鍛える
「掃除一つできなくて、仕事ができるか」-。5月中旬、宮崎市天満町の県警察学校グラウンドに、女性助教の声が響いた。今春、警察官になったばかりの初任科生80人が硬い表情で耳を傾ける。その後、「ランニング」の掛け声で一斉に走り始めた。初夏の日差しが照りつける中、ランニングは30分以上も続いた。県警では定年者の大量退職が続き、若手の早期育成が叫ばれている。そんな中、“警察官の卵”を訓練し、現場に送り出す警察学校は重要性が増している。
初任科生の一日は多忙だ。講義は1日5時限。刑事訴訟法や調書作成など実務に必要な知識を学ぶ一方、柔道、剣道で体力を強化。空いた時間は、課題や体力トレーニングに追われる。
昼の休憩が唯一の息つく時間かと思えば、昼食をかき込み、すぐに教科書を開く姿も。自分の時間は、ほとんどない様子だが、初任科生に話を聞くと、「大変だけど、同期との寮生活は楽しく、それが支えになっている」という。
規律も厳しく、ルールを破ればペナルティーもある。冒頭のグラウンドでの一こまは、生活の緩みを正そうと予定を変更して行った特別授業。「規律はもちろん、困っている人を助けるには目配り、気配り、心配りが大切。ここでしっかり身に付けてほしい」。生活指導担当の矢野利香助教(32)が30分以上のランニングを課した裏には、そんな“親心”があるようだ。
即戦力を育てようと、近年力を入れるのが現場を想定した「実戦訓練」だ。交通取り締まりの講義では、経験豊かな教官が違反者を演じ、初任科生の知識を試すように言葉巧みに言い逃れを図る。初任科生は知識不足を突かれ、気おされながらも違反切符を切っていく。「実況見分」「拳銃使用の判断」。あらゆる場面を疑似体験することで、現場のイロハを身に付ける。
就職戦線の売り手市場を背景に、県警も人材確保が難しくなっている。そんな中、訓練に励む初任科生は、どんな思いで警官を志したのか-。
上村こなつさん(24)は「困っている子どもや女性を助けたい」と民間から転職。関東の大学を出た梅木翔大朗さん(22)は父親も警察官。都会で働いてみたいと悩んだ末に、「やはり地元で父と同じ仕事を」と決意した。山形出身の吉本隼篤(はやと)さん(18)は「何度か訪れ、人の温かさを感じた」という本県で、憧れだった警官の道を歩む。
「優しさや思いやりを持つことが、警察官として強くなること」と永野博明校長。「県民に信頼される警察官になるためにも、そのことをしっかりと伝えていきたい」と力を込める。