田代集落の田畑を潤す「小池」、水温は12度で一定、水量は毎分約4トンを誇る。透明度が高く、湧水が青みがかって見える=19日午後2時(許可を得て水中撮影)

米どころ支える豊かな水

 こんこんと湧き出る豊かな水が郷土の稲作を支える。米の食味ランキング(2015年産米)で県内初の「特A」を獲得した、えびの市産ヒノヒカリ。食味向上にこだわる生産者のたゆまぬ努力と「米どころ」を支える豊かな自然が育んだ成果だ。産地の一つ、同市末永の田代地区では霧島連山からの湧水が貯水池をたたえ、田植えの始まりを待つ。

 湧水が点在し、古くから農業の盛んな同地区。集落を潤す農業用水は享保年間(1716〜35年)に造成された「陣の池」から供給される。同池から南東に約100メートル離れた霧島連山の麓にある「小池」が水源で、池の縁にある岩盤の割れ目から毎分約4トンが勢いよく湧き出す。

 陣の池から集落に向けて延びる水路は全長約2キロ。昔から日常生活に利用され、水路沿いの民家には水辺に下りる階段が残る。同地区の貴嶋俊介自治会長(66)は「今でもスイカを冷やす時は水路に漬けるし野菜も洗う。田植えの頃はホタルの乱舞が見事ですよ」と誇らしげだ。

 「えびの盆地特有の寒暖差の大きい気候、川内川水系や湧水がもたらす豊富な水が稲作に最適」と話すのは、JAえびの市稲作振興会の高牟禮宏邦会長(77)。市内の湧水は浜川原や西長江浦なども有名だが、その中でも小池は水温12度を保ち特に冷たい。米作りに適した水温は約18度で、冷た過ぎる水は未熟米の減少や害虫の抑制にメリットがある半面、いもち病の発生や分けつ(苗が根元から分かれて増えること)しにくいなどの欠点もある。高牟禮会長は「冷たい小池の湧水を直接田んぼに引かなかったのは、日当たりの良い陣の池を経由させることで水温や水量を調整するためだろう。先人の知恵には頭が下がる」と感心する。

 田代地区の水田には現在、二毛作で植えられた畜産飼料が風に揺れる。1週間もすると収穫され、いよいよ普通期水稲の準備だ。豊作を願うように田んぼを見詰める田の神さあが、朝霧に包まれた集落中央にそっとたたずんでいた。

【メモ】 2015年の農林水産統計によると、えびの市の主食用水稲10アール当たり収量は546キロで県内第1位。田代地区では5月8日に家畜の安全や五穀豊穣(ほうじょう)を祈願する天宮神社馬頭観音祭を開催。同15日には住民総出で用水路の清掃を行い田植えに備えるという。