一ツ葉海岸を象徴する松林。冬の早朝、立ち込める水蒸気に木の影が幻のように映る
松林を漂う霧に朝日差す幻想世界
松林に差し込む朝日が、ゆらゆらと漂う霧に反射しきらめく。雨が上がり、冷え込んだ冬の朝。日向灘沿いの海岸を霧がすっぽりと覆い、うっそうとした林を幻想世界に変える。宮崎市の新別府町から佐土原町まで南北約12キロ続く一ツ葉海岸。アカウミガメ産卵地の砂浜は県の天然記念物に指定され、一帯の松林と白砂青松の景観を生み出す。
林野庁九州森林管理局宮崎森林管理署によると、松林はクロマツでできており最大幅約1キロ、面積約830ヘクタールに及ぶ。住民の生命財産を潮害から守る保安林の役目を果たしている。樹齢は古い松で百数十年だが、大木はあまりない。昭和初期からの松くい虫被害や戦時中の油採取などで失われてしまったという。
記紀に「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原」とうたわれる一葉稲荷神社(宮崎市新別府町)。その境内にあった「一葉の松」が海岸名の由来とされる。現在も境内では葉が一本しかない松葉が見つかり、宮司の石川浩さん(64)は「普通の松葉と比べて太く、角がなく丸い。縁起物として探す人も多い」と語る。
松林がいつできたのかは分からない。ただ、神社に伝わる絵図「日向檍原並三津瀬図」には約800年前の松原が描かれ、古くから暮らしと密接に関わっていたことがうかがえる。
今も阿波岐原森林公園市民の森や市フェニックス自然動物園などが整備され、観光客や市民に親しまれる。15年間、市民の森を毎朝散策する宮崎市大島町の児玉明さん(75)は「松林を歩くと気持ちがいい、春の新芽の出るころが特にお勧めです」と笑顔を見せた。
【メモ】一ツ葉海岸沿いに一ツ葉有料道路北線(11.2キロ)が走る。松林と海が広がる絶好のドライブコースで、パーキングエリアでは海岸へ下りることもできる。料金は普通車200円。