田んぼに浮かび上がる街灯や店の明かり。苗の背丈が伸びる前だけ見られる

水面に溶け込む街の明かり

 宮崎市中心市街地と市北部をつなぐ国道10号宮崎北バイパス。昼夜問わず交通量が多い幹線道路の西側には広大な水田が広がっている。この季節、夜になると道沿いに並び立つ郊外店の照明や車のヘッドライトの光跡が水を張った田んぼに映り込む。現代社会のせわしさが光となって農の風景に美しく溶け込み、見る角度によってさまざまな景色を楽しめる。

 同市花ケ島地区で約60年間農業を営む小田原久典さん(74)は、「用水路がしっかりと整備される昭和50年代以前は、直線、曲線から成る田んぼのあぜを部分的に切り崩し、田から田へ水を注いでいた。フナやザリガニがいて、子どもたちがよく水遊びをしていたよ」と懐かしむ。

 宮崎北バイパスは1998年に全面開通。東側には電器店やスーパー、衣料品店が次々に出店し、商業地域へと変貌していった。

 幻想的な夜景は田植えの季節を知らせてくれるが、稲の生育への影響も指摘されている。県営農支援課によると、夜間も光に照らされると稲は“日照時間”が長くなったと感じ、出穂が遅れる傾向があるという。国交省宮崎河川国道事務所では、農家の申し出があった箇所の街灯を4月中旬〜7月まで消して配慮する。

 同バイパス近くで稲作をする井野義美さん(66)は「発育に多少の遅れは出るが気になるほどではない。この辺りの土は粘土質で保水力が高く管理がしやすい。根の張りもいいから、おいしい米ができる。水路の整備も行き届いていて、安心して稲作ができる」と顔をほころばす。

 夕日が沈むとだんだん濃紺色の空が広がり、街の明かりが田んぼに現れ始めた。いつまでも動く人の営みと自然の融合が生み出す景色にしばし浸っていると、車の走る音に負けじとカエルの鳴き声が元気よく響いてきた。

【メモ】 宮崎北バイパス西側の水田は下北方、花ケ島、南方、池内町が入り組んでいる。主にコシヒカリが作られており、他に加工米や飼料米も栽培されている。水田が広がる中に点在するビニールハウスでは、キュウリ栽培も盛んに行われている。