今も現役の井戸の内部。ふぞろいな大小の石が巧みに積み上げられ、井戸の底から高さ約8メートル、直径120センチの円筒を形成している。ごつごつとした質感は力強く、圧倒される。先人の技術力とともに、完成までの苦労がしのばれる

100年以上生活支える

 緻密(ちみつ)さと粗削りな力強さ―。積み上げられたふぞろいの石たちは、光を浴び圧倒的な迫力で存在感を見せつけてくれた。100年以上も“現役”として活躍する井戸。住民生活を支え続けてきた誇りに満ちあふれる。

 のどかな田園風景が広がる延岡市北方町の曽木地区。同地区で、昨夏目にした石造りの井戸を思い出し、同地区在住の甲斐武さん(97)方を訪ねた。

 井戸は、同地区に水道が整備された1975(昭和50)年ごろまで生活の中心だった。井戸の上に組まれたやぐらに、滑車とおけが下がる「つるべ式」で水をくみ上げ炊事や洗濯、風呂などすべてに利用してきた。夕方、風呂水をためるのは子どもの仕事だったとも。

 甲斐さんは「小さいころは、井戸のふちが胸元まであって高く感じた」と幼かった当時を振り返る。今では「つるべ」は姿を消し、水はポンプでくみ上げられる。

 井戸の構造は地上部と地下とで異なる特徴を持つ。地上部分は、4枚の溶結凝灰岩(高さ45センチ、幅120センチ、厚さ15センチ)を組み合わせている。技巧的な切り込みで、力が内側へかかり、石板同士が外れるのを防ぐ技術者の“技”が光る。1枚だけ石板の上部がすり減っている。何万回という水くみのたび、おけを置いた場所。長い間、人間と生活してきた証しでもある。

 深さ約8メートルの地下部分は、河川の護岸などに用いられる間知(けんち)積みを応用。土留め用に溶結凝灰岩や川石を加工し、井戸の底から円筒形(直径120センチ)に積み上げている。ひんやりとした空気の中に、ごつごつとした石がすき間無く居座る。石の壁に「獄舎」のような一面も垣間見る。

 井戸の建設記録や歴史資料は残っていないが、甲斐さんによると「生まれる前から井戸は存在した。少なくとも100年以上の歴史を持つ」と推測する。

 甲斐さん方周辺の8戸中、6戸が今も現役の井戸を所有し、上水道と併用している。地域にとっても井戸は身近なもの。建設に従事した先人に加え技術者たちが苦悩の末、完成させた井戸。これからも、住民に愛され大切に守り継がれる。(写真部・米丸悟)