水中にきらめくカワノリ。5年ぶりの収穫に摘み取る手つきも軽やかだ
清流に育つ山の恵み 災害経て5年ぶり収穫
椎葉村不土野の尾前地区で夏の風物詩カワノリ採りが始まった。村内に大きなつめ跡を残した2005年9月の台風14号以来、5年ぶりの再開。荒れた谷川は森がはぐくむ自然の力でよみがえり、エメラルドグリーンの輝きが岩肌に揺らめいている。カワノリは渓流の岩に生える緑藻類。熊本、静岡、山梨県などに自生し、古くから、山里の貴重なミネラル源だった。
西都市三納の植物研究家滝一郎さん(80)によると、県内では高千穂町や諸塚村など九州山地などに分布し、西米良村が国内の南限になっているという。滝さんは「水が冷たく日が適度に当たるなどさまざまな条件がそろった場所にしか生息しない」と希少性を訴える。
尾前地区で400年の歴史を持つ浄行寺は代々、尾前川支流で採るカワノリを精進料理の一品に用いている。しかし台風14号で川が破壊され、全く採れなくなった。住職の尾前賢了さん(47)は昨年、岩に生えているのを発見。「ノリが付く岩は台風の土砂で磨かれ無残な状態だったが、やっと採れるまでになった」と今年の収穫を楽しみにしてきた。
尾前さんは今月中旬、母の迦代さん(71)と川に向かった。岩には3―5センチに成長したカワノリが岩にびっしり付いている。「こんなに回復しているなんて、うれしい」。迦代さんの顔がほころんだ。
ウエットスーツに身を包み水に入る。水温13度と指がかじかむ冷たさだ。2人はそれを感じさせない慣れた手つきで金ざるに入れていく。
扱い方が荒いと水中で細かくちぎれてしまう。「流れに沿うように採ると、ノリに付いているごみも流される。つまんだり指と指の間に挟んだりしてむしってみて」と迦代さんがこつを教えてくれた。
約4キロを収穫。自宅に帰ると、小石や虫を取り除き、シイタケ乾燥用の金網に広げて板状に形を整える。この時、広げ方にむらがあると金網からはがす際に破れてしまうため、太陽に透かしながら均一になるように丁寧に作業をする。天日に半日ほど干すと大判(縦110センチ、横50センチ)8枚の出来上がり。口に含むと、何ともいえない川の風味が広がった。
「台風災害に遭い、清流を守ることは山を健全な状態に維持することだと分かった。カワノリを次世代に残すため、焼き畑を復活させて豊かな原生林に戻すなど環境保全にも力を入れたい」と尾前さん。父親から受け継いだ山の食文化を守ろうと、熱い思いが伝わってきた。(写真部・宮本武英)