山頂に黄金色の朝日が差す高千穂峰。眼下には自然の恵みの大地が広がる
ニニギノミコトが降り立った
山の頂を囲む雲の切れ間から黄金色の朝日が差し、天逆鉾(あまのさかほこ)を照らし出す。霧島連山の最南端にある高千穂峰(標高1574メートル)。その光に、神々を引き連れたニニギノミコトの姿が重なった。緩やかな稜線(りょうせん)を描く秀麗な山容。県北の高千穂町とともに天孫降臨神話が伝わり、古来、霊峰としてあがめられてきた。アマテラスオオミカミの孫ニニギノミコトが、地上の統治者となり降り立った地とされる。
頂上の天逆鉾は二度と争いがないように突き立てられたと伝わる。全長約2メートルの金属製で、その半分は地中に埋まっている。2011年に起きた新燃岳爆発的噴火の影響か、以前の青銅色から黒く変色し風格を増したように見える。
麓の高原町にある霧島東神社は天逆鉾が社宝。宮司の黒木将浩さん(47)は「修験道の盛んだった江戸時代は山伏が礼拝していた」と言う。坂本竜馬の新婚旅行の地、古事記編さん1300年などの話題もあって、今では多くの登山客が訪れ、それぞれの思いで向き合う。黒木さんは「いにしえに思いをはせ、手を合わせてほしい」と願っている。
地元の言い伝えによると、ニニギノミコトが降臨の途中、アマテラスオオミカミに託された高天原のもみをまくと、視界をさえぎっていた霧が晴れたという。高原町周辺では霧島陸穂(おかぼ)として、地鎮祭で稲もみをまく風習が残っている。
裾野に広がる水田を眺めていると、豊かな自然と人々の営みの中に神々が生きていると思えてくる。
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高千穂町と高原町を結ぶ広域観光ルート「ひむか神話街道」。総延長約300キロ。沿線に残る記紀伝説の地を訪ね、毎月1回、古代ロマンの世界を写真で表現する。
【メモ】新燃岳噴火に伴う登山道規制は7月15日に一部解除。高千穂峰は鹿児島県側の高千穂河原からのみ登れる。現在、宮崎県側は山頂付近が危険なため、規制は継続されている