村上三絃道の二代目家元の村上由哲さん(右)と三代目を襲名する由宇月さん=24日午前、宮崎市民文化ホール
新たな道の始まり-。津軽三味線演奏グループ「村上三絃道」(宮崎市)の二代目家元を30年間務めた村上由哲(よしのり)さん(57)が、その役目を25日、長女・由宇月(ゆうづき)さん(27)に譲る。「伝統音楽を心豊かな人づくりにつなげる」。母娘は同じ思いを胸に、継承前最後となる同日の舞台に立つ。
村上三絃道は青森県の津軽地方出身の初代家元・村上由哲さん(故人)が1972(昭和47)年、宮崎市に設立。津軽三味線や民謡の普及に励み、現在の門下生は九州と四国、中国地方で400人を超える。
二代目家元・由哲さんは、父である初代家元が1990年に急逝して以降、グループを束ねてきた。これまでに全国各地の千を超える学校で鑑賞教室を実施。海外の伝統音楽との共演も重ねるなど、音楽で人と人の絆を結んできた。
今年は家元襲名から30年の節目。由哲さんは4月に肺がんで余命半年と宣告された。十分な準備期間がないまま継承して苦労した自身の教訓から、「この世にいるうちに今後の道を定めないといけない」と危機感を持った。
幸い、2歳で芸能の世界に入った由宇月さんは「努力の人。彼女にしかできない表現力を持つ演者」と認めるまでに成長。由哲さんは三代目としてバトンを託す決意を固めた。
由宇月さんは家元の肩書だけでなく、伝統音楽に懸ける母の思いも継ごうと考えている。地域で忘れ去られかけた民謡を楽譜に起こして再生したり、学校コンサートに地域住民を招いたり、次世代への継承を促す活動に心を砕く。
「生きている限り舞台に立ちたい」。投薬治療を受けながら闘病を続ける由哲さんは25日の公演後も、「宗家」として村上三絃道を支え続ける。「音楽と人を大切にして、皆さんに喜んでもらえる活動を」と、三代目にエールを送る。
由宇月さんは「母は人との縁をすごく大切にする。その姿にはまだかなわないけど、母が掲げてきた『伝統音楽を通じて心豊かな人をつくる』という理念に恥じない人間性を身に付けたい」。心の底から敬う母の背中を追う。
由哲さんが家元として最後に臨む舞台「伝統・未来音楽祭」(実行委など主催)は25日午後3時、宮崎市民文化ホールで開演する。