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満開の桜に亡き妻思う 春が来るたび家族が集う場所

2017年4月16日掲載

妻を思い植えた桜の木の下で家族が集まり笑顔を見せる武内久さん(右奥)=串間市市木

 桜が咲き誇る春の野山に家族の笑い声が響き渡った。7年前に妻トモ子さんを亡くした串間市市木の武内久さん(72)。久さんと子、孫たちはトモ子さんへの思いを胸に家の近くの山に15本の苗木を植えた。この春、ようやく見頃を迎えた。心待ちにしていた初の花見に家族が集まった。にぎやかなことが大好きだったトモ子さん。「ずっと忘れないよ」。満開の桜を見上げ、久さんは誓った。

 2人が結婚したのは1973(昭和48)年。久さんは28歳、トモ子さんは19歳。「『若い嫁さんをもらって』と散々冷やかされた」と久さんは苦笑いする。幸せな生活の中で3人の子どもにも恵まれた。

 子育ての傍ら縫製工場で働いていたトモ子さんは「思いやりのある優しい人」(久さん)。歌うのが大好きで人前でも気後れせずマイクを握り、場を盛り上げる性格だったという。

 「一緒に農業でもしようか」。そう2人で老後の暮らしを思い描いていた。だが2009年、トモ子さんが退職してすぐに胃がんが見つかった。翌年10月、55歳で亡くなった。

 葬儀などで慌ただしく日々が過ぎ、年が明けた。「忘れられたくない」。久さんは家族が妻を思い出せるよう春に集まって花見を楽しめる桜を植えることを思い立った。

 息子や孫たちと話し、お金を出し合ってソメイヨシノの苗木を購入。妻と耕すはずだった野山の畑40アールを整え、11年3月にソメイヨシノを植えた。一人一人の名を記した木板と記念碑も添えて。

 久さんは週1回は足を運び、草刈りや肥料やり、木の支え作りに汗を流した。野猿に花芽を摘まれたり、台風で倒れたりしたこともある。敷地を流れる小川が大雨であふれないよう土手も補強した。

 晴天となった9日、「満開記念」の看板を木に掲げ花見を開催。柔らかな日差しの下、子や孫、姉ら9人と食事を囲み思い出話に盛り上がった。「子どもたちもこの家族の風景を覚えていてほしい」。市内に住む長男の寿友さん(43)は目を細める。

 久さんは満面の笑みを浮かべみんなを見つめていた。「子どもたちがずっと妻を思い出してくれたらうれしい。自分が死んだ後も家族が集まって、いつまでも仲良く暮らしてもらえれば」。春が来るたびに家族の絆を確かめる場になってほしいと久さんは願う。