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延岡シネマ奇跡の復活 閉館危機救った映画愛

2018年8月17日掲載

延岡シネマの有田支配人(左)とスタッフたち。映画文化を守り続けるためユニークな取り組みが続く=延岡市・延岡シネマ

 濃淡のある青いシートが並び、懐かしく落ち着いた雰囲気が漂う延岡市北町の「延岡シネマ」。県北唯一のこの映画館は、多くの人気作品を封切り日に上映することから、全国の同業者から「奇跡の地方映画館」と称賛されている。10年前の閉館の危機から華麗なる復活を遂げた“銀幕”の裏には、地方の映画文化を守るために奮闘する支配人の有田美紀さん(45)たちの姿があった。

 延岡シネマの前身は約30年前に設立された「延岡セントラル」。複合映画館(シネマコンプレックス)の参入などで、福岡県飯塚市の親会社の経営危機が表面化したことで、同館も存続が危ぶまれていた。しかし、九州の映画館に映写機や音響装置を卸していた映写機メーカー「フジサービス」(福岡市、山本桂資社長)が経営を引き継いだことで、再スタートを切ることができた。

 有田さんが支配人に就いたのはその4年後。映画好きの有田さんに山本社長が声を掛けた。「故郷の延岡のために手助けしてほしい」。当時、福岡市内の映画配給会社に勤務していた有田さんの働きぶりや“映画愛”の深さに白羽の矢を立てた形となった。

 有田さんは仕事を辞めて、延岡にUターンした。そして、支配人に就任すると「面白いことをやる映画館」を目標に掲げた。3カ月に1回ほどのペースで、上映中の映画のテーマに合わせて独自のイベントを開催。延岡市仏教会青年部のお坊さんを招き、トークショーを開催したり、地元の洋菓子店から協力を得て、映画をモチーフにしたデザートを提供したり。街を巻き込んだ地域密着型の企画を次々と打ち出し、一気に地元の注目を集めた。

 その一方で、この10年で同館の経営環境は大きく変わった。東九州自動車道の整備は進み、宮崎や大分市内のシネコンに気軽に足を延ばせるようになった。3スクリーンしかない同館にとって、10以上のスクリーンと最新設備があるシネコンは強いライバルとなる。

 「市民の満足度を高めなければ閉館してしまう。人気作品を封切り日から上映するしかない」。存続を懸けて有田さんは映画配給会社と粘り強く交渉した。すると、ユニークな取り組みが評価され、1年間に上映する約35作品のうち、ほぼ半分が封切り日から上映できるようになった。その評判は全国に広がり、同業者にも一目置かれる映画館となった。

 有田さんは「延岡シネマが継続しているのは地域のおかげ」と、地元への感謝の思いを強めている。また、スタッフの採用面接では、地元への思いや愛着を必ず尋ねるようにしている。

 ただ、平日には来館者数が数人という日もあり、経営に余裕はない。有田さんの心の支えは、毎年夏休みに訪れる帰省客の「まだ映画館あったんだ、懐かしい」という声だという。有田さんは「市民それぞれの、かけがえのない思い出が詰まった場所。ただの娯楽施設ではない」と力を込める。