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財務副大臣も辞任

2023年11月15日
◆旧態依然とした人事の弊害◆

 岸田文雄首相は、過去に税金滞納を繰り返していた自民党の神田憲次財務副大臣の辞任を受け入れた。事実上の更迭だ。

 9月に第2次岸田再改造内閣が発足後、不祥事による政務三役の辞任は3人目だ。人事権者として内閣の布陣を「適材適所」と強調した首相の政権が信任に値するのか、強い疑念が生じてこよう。

 神田氏は先週9日の参院財政金融委員会で、2013年から22年にかけ自身が代表取締役を務める会社が保有する土地・建物の固定資産税を滞納し、4回にわたって差し押さえを受けていたことを明らかにした。

 週刊誌報道を追認したもので「お騒がせして申し訳ない。深く反省する」と陳謝したが「引き続き職務の遂行に全力を傾注する」と辞任は否定。差し押さえ前に税務当局から届く納税の督促状については「議員の職務が忙しくなる中で見るのが遅れた」と、信じ難い釈明をした。

 財務省は国民に納税義務を果たすよう求める役所であり、副大臣は財務相に次ぐナンバー2のポストだ。しかも神田氏は税理士の資格を持っている。常習的とみられても仕方ない税金滞納が判明した段階で、岸田首相は辞表の提出を待たずに即刻更迭すべきだった。

 なぜ週をまたいだ、遅きに失した辞任になったのか。再改造前の内閣で昨年秋以降、不祥事で4人の閣僚を更迭した際もそうだった。政治不信を増幅させることへの首相の危機感が薄いか、首相自身の任命責任に跳ね返ることを懸念したとしか思えない。今の内閣では神田氏の前に、20代女性と不倫関係にあると報じられた文部科学政務官、公選法違反事件への関与で法務副大臣が辞任している。

 閣僚ら政務三役の人選に当たっては「身体検査」と称し、国民から問題視されるような事案を抱えていないかを調べるのが通例だ。3人にまつわる問題について目をつぶったわけではあるまい。ただ、十分な調査ができないまま、当選回数などに重きを置いた旧態依然とした人事を行うと、決して「適材適所」にならないことを示している。

 背景には、首相が次の衆院選勝利による来年秋の自民党総裁選での再選を優先させていることもあろう。資質を厳格に見極めて党内の有力者たちの人事希望をはねつければ「反岸田」勢力を増長させかねないからだ。

 首相は神田氏の辞任について「任命責任を重く受け止めている。政府一丸となって緊張感を持って職務に当たり、国民の信頼回復に努めていく」と述べた。これまでも同様の発言を繰り返してきたが、今後も政務三役の辞任が続けば、もはや信任は取り戻せないと自覚する必要がある。

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