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観光公害対策

2023年10月27日
◆地方に呼び込み集中緩和を◆

 今年9月に日本を訪れた外国人の旅行者数は218万人と推計され、新型コロナウイルス流行前の水準をほぼ回復した。今年7~9月期の訪日客の消費額はコロナ禍前を上回り1兆3904億円となっている。

 円安による割安感があり今後も訪日客の増加は見込まれ、消費額の年間目標5兆円の突破が視野に入ってきた。観光は旅行サービス、運輸、宿泊、飲食など分野が広く、多くの雇用を生み出す産業だ。将来も有望と言えるだけに、今のうちに持続的に成長できる道筋を付けたい。

 観光の振興は、地元住民らの理解と支持を得ることが大前提だ。それだけに旅行者が特定の場所に集中して引き起こされる「オーバーツーリズム(観光公害)」対策を急ぎたい。

 具体例では、鉄道やバスの混雑で地元住民が不便を被ることや、写真撮影を理由に農地や私有地への無断侵入、ごみのポイ捨てなどがある。タクシー運転手らの人手不足によって待たせることも、旅行者の満足度を下げる点から対応が必要となる。

 観光公害の実態は地域によって異なる。市町村や観光地域づくり法人(DMO)が中心となって対策をまとめ、国が後押しする方が機能するだろう。

 混雑には、公共交通機関の整備によって住民の通勤・通学への支障を除く方策もある。需要の分散・平準化では、観光スポットの混雑状況やすいている観光ルートをリアルタイムで情報提供する方法も有効だ。

 自然を保全する必要がある地域や歴史的な集落、静かさを保つことが求められる寺社などでは、人数を制限することも選択肢となる。ガイドによる案内の義務付け、入場料の徴収、事前予約などがあるだろう。

 訪日客のモラル向上については、日本政府観光局(JNTO)が海外の旅行会社を通じて旅行者に事前にPRする。観光地でも多言語の掲示板を充実させ粘り強く訴えたい。文化や習慣の違いもあるだけに丁寧な説明が待たれる。

 その土地ならではの旅行コンテンツを積極的に紹介することも一案だ。田植えや稲刈り、登山、川下りなどを通じた楽しみ、住民らとの交流を盛り込んだ体験ツアーを用意すれば、地域活性化にもつながる一石二鳥の施策とも言える。体験や日程をオーダーメードで用意する旅行プランが地方に多く生まれれば、分散と消費額のアップにもつながるはずだ。

 地方にある旅行社が連携することで、長期滞在の体験旅行をつくることも可能となる。国には外国人向けの体験商品の開発とPR、コーディネートできる人材の育成に対する支援を充実するよう提案する。

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