フリーランス労災認定
2023年10月20日

インターネット通販大手アマゾンジャパンの商品を配達中にけがをしたフリーランスの男性が労災認定された。
個人事業主として企業と業務委託契約を結び、働く時間や場所を自由に選べるのがフリーランスと思いがちだが、男性の場合は程遠い。アプリで配達ルートや荷物量を細かく指示され、長時間労働を余儀なくされた。
けがで働けないとアマゾン側に相談しても、取り合ってもらえなかったという。企業に雇われている労働者なら労働基準法により保護され、労災補償を受けられる。だが事業主は原則として対象外。男性は「業務委託でも、実態は雇用と変わらない」と訴え、事実上の労働者と認められた。
フリーランスは2020年の調査で、推計462万人。配達員を含めて職種は多岐にわたり、本業、兼業を問わず増え続けている。政府が公表した23年版の過労死等防止対策白書では、フリーランスが多い芸術や芸能の業界で長時間労働や低額報酬、セクハラ・パワハラなどが後を絶たず、深刻さを増していることが明らかになった。
発注元に適正取引やハラスメント対策を義務付けるフリーランス新法が4月に成立したが、「名ばかりフリーランス」が急増している。労働時間規制や最低賃金が適用されず、残業代もないなど課題は尽きない。多様な働き方を担保する安全網の拡充が急務だ。
フリーランスという働き方を巡り、政府は21年3月公表の指針に「契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づき『労働者』かどうかが判断される」と明記。労働者に該当すると判断された場合には、労基法や労働安全衛生法など労働者の保護を目的とする関係法令が適用されるとしている。
企業が知らないはずはないが、指針に沿わない対応が目立つ。食事宅配大手ウーバーイーツの運営会社も「労働者に該当しない」として、配達員でつくる労働組合との団体交渉を拒否。雇用関係はなくても労働者に当たると判断され、交渉に応じるよう命じられた。
企業は労働者の雇用保険料の一部、労災保険料の全額などを負担しなければならないが、事業主なら、そうした出費を省ける。正社員との雇用契約を業務委託契約に切り替え、経営の立て直しを図る例もあるほどだ。
最近は「ギグ(単発)ワーカー」と呼ばれ、ネットを介し単発の仕事を請け負う人が増え、その多くは配達員とみられている。国による保護の実効性確保が欠かせないのはもちろん、何より企業が経費やリスクを負わない手法を改め、誠実に対応していくことが求められよう。