◆再招致是非　住民の声を聞け◆

　かつて「オリンピック運動の優等生」と世界から評価されてきた日本の五輪への取り組みが揺らいでいる。２０２１年の東京五輪・パラリンピックが汚職、談合事件で汚された。今度は３０年冬季五輪・パラ開催を目指していた札幌市が３０年大会の招致を断念し、３４年以降に目標を切り替える。

　東京大会での不祥事により機運が低下。欧州から有力候補都市が出てきたこともあり、今回は勝ち目がないと見ての撤退である。札幌市は当初から３０年大会開催地の最有力候補とみられ、国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）は２２年のうちに内定、今秋に正式決定するとの見通しがあった。

　ところが２２年夏に東京大会の不祥事が相次いで発覚。ＩＯＣは開催地選定を２４年以降に先送りした。これを受けて札幌市は２２年末から招致機運を盛り上げる活動を休止。ＩＯＣ、札幌市とも、日本国内での五輪批判の高まりを憂慮し、ほとぼりが冷めるまでの猶予期間を設けたともみられていた。

　札幌市にとっては住民の開催支持率の低迷も痛手となった。昨年３月の１万人を対象にした市民アンケートでは「賛成」と「どちらかといえば賛成」が計５２％で、わずかに半数を超えただけ。今年４月の市長選で秋元克広市長は３選されたが、招致反対の２候補に４割超の票が流れた。

　断念に至るまでの経緯も不透明な点が多い。当初は名乗りも挙げていなかったスウェーデンやスイスなどが相次いで招致活動を開始。ＩＯＣが担ぎ出したとも評されるスウェーデンが、最有力候補にのし上がった。

　ＩＯＣの開催地選定方法が透明性と公平性を欠くために、こうした複雑な動きが生じる。以前はＩＯＣ委員の投票で開催地を決めていたが、今は複数の候補都市の中から理事会で最終候補を一本化し総会で承認する。投票による選定は買収などの不祥事を生んだが、現行方式の舞台裏はさらに不明瞭だ。

　３４年大会の再招致も先行きは険しい。ソルトレークシティー（米国）が既に有力候補の位置を固めている。招致費用もかさむし、開催計画や膨張必至の運営費用の見直しも必須だ。何より必要なのが、あらためて民意を聞くことだろう。五輪開催の是非を問う住民投票実施案は昨年、札幌市議会が否決した。それでもなお市民からは、住民投票を求める声が上がっている。

　欧米では、巨額の公金を投じる五輪招致は住民投票の結果を踏まえる例が多くなっている。今後、再招致に動くかどうかは住民投票、あるいは規模の大きい市民意向調査を実施して住民の声を聞くことが前提になる。