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ノーベル平和賞

2023年10月11日
◆世界の女性抑圧に光与える◆

 今年のノーベル平和賞は、イランの女性人権活動家で、現在も刑務所に収監されているナルゲス・モハンマディさん(51)に授与されることになった。イランは強権的な政府の下、世界でも特に女性の権利が抑圧されていることで知られる。モハンマディさんへの授与は、表現の自由なども含めた基本的人権に注目した選択と言える。

 モハンマディさんはイランで長年、女性や少数民族の権利向上、死刑廃止などを訴え、その度に当局に逮捕されてきた。逮捕は13回、有罪判決は5回に及び、合計31年の禁錮刑を受けて、現在もイランの首都テヘランの悪名高いエビン刑務所に収監されている。

 イランでは昨年9月、髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切だとして風紀警察に拘束された女性が拘束中に死亡。市民の間で警察の暴行疑惑が深まり、平和的な抗議デモが全土に拡大した。だが、当局はデモ隊を徹底弾圧し、犠牲者は500人以上、少なくとも2万人が逮捕されたとされている。

 米ニューヨーク・タイムズ紙によると、モハンマディさんはデモが広がりを見せている際に、刑務所の中庭で他の女性受刑者らと抗議の座り込みを組織したという。看守らの制止にもかかわらず、受刑者らは集団で歌い、壁にスローガンを書いて怒りを表明した。モハンマディさんは「イラン当局が私を罰し、おとしめるほど、民主主義や自由を達成するまで闘う決意が確固としたものになる」と揺るぎない姿勢を示している。

 ノーベル賞委員会は発表の中で、今回の平和賞が「女性を差別、抑圧する政策に立ち向かっている数十万人の人々」に向けたものであると語った。

 イランの隣国アフガニスタンでは2021年8月、イスラム主義組織タリバンが復権して以来、暫定政権下で女性の抑圧が強化され、女性の就労や中・高等教育の修学制限など、それまで認められていた権利が次々と?奪されている。

 アフガン国内にとどまる女性人権活動家マフブバ・セラジさんは「(タリバンの復権後)アフガン女性の人生は180度転換した」と糾弾しており、今回の平和賞は胸に響くはずだ。

 女性の人権を巡る「逆コース」は強権国家だけではない。米最高裁は昨年6月、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた「ロー対ウェード」判決を覆した。中絶の容認は、女性が自らの身体に関する決定権を確保するために不可欠だが、連邦法では中絶を選ぶ権利が保障されなくなった。今回のノーベル平和賞は、先進国におけるこうした女性の権利の「後退」も視野に入れているとみるべきだろう。

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